「我が社がマスクを作ったワケ」建設機械用メーカートップが語る
油圧フィルタの専門メーカーから総合フィルタメーカーへ
東証一部指定の翌年である2017年には、世界初の独自ナノファイバー「YAMASHIN NANO FILTER」の量産化技術を確立した。建機業界以外の新たな市場開拓や分野への進出を狙う試みを、山崎社長は「建機業界のみに頼らず、業績の安定化を図りたい」とし、次のように話した。
「これまでは売上の9割を建機業界に依存していました。社会情勢によって建機業界は浮き沈みがあるため、良い時も悪い時もある。そこで、現事業が好調なうちに新しい事業の柱を作るため、ナノファイバーに着目しました。
従来の繊維にはない、新たな価値を提供できる次世代の素材になりうるのがナノファイバーで、綿のように軽く柔らかい素材でありながら、高耐熱性、高強度といった特性を持ち合わせています。これまで培ってきた油圧フィルタの開発力を生かし、当社独自の量産化技術を確立したことで、建機以外の幅広い分野に応用できます。このナノファイバー技術で、パラダイムシフトを巻き起こしたいです」
油圧フィルタの専門メーカーから総合フィルタメーカーへ。2019年にはエアフィルタ製造の株式会社アクシーを買収し、エアフィルタ事業へ参入。さらに、2020年に入ってからの新型コロナウイルス蔓延に伴い、新たにマスク事業を立ち上げ、販売体制を構築している。こうした事業拡大の裏は、独自のナノファイバー量産化技術が支えているのだ。
マスク事業に本腰を入れるわけ
マスク事業立ち上げの背景については「フィルタメーカーとして、お客様のお役に立ちたい。マスクは飾りではなく、フィルタなのだ」という想いがあった。加えて、アフターコロナに備えた事業も見据えているという。
「感染症予防の対策としてマスクは重要なものです。そこで、当社のナノファイバー量産化技術を用いてマスクの供給ができないか模索するために、フィリピンの工場で試作品を作って、社員用に配布したり、テストしたりしてきました。そして、今年5月に一般消費者向けマスクの製造販売を開始するに至りました。
これは会社の長い歴史の中で、初めてBtoCの事業に参入するわけで、まさにエポックメイキングなことだと考えています。今後のアフターコロナにおいても、『マスクを着用する』という文化は残ると思うので、マスクが継続的に供給できるよう、本腰を入れてビジネスを展開していきたいですね」
受け継いだ社訓を大切しつつ、今後は環境・空気・健康をキーワードに、持続可能な社会へ貢献する企業として、さらなる成長を遂げていきたいという。その可能性に注目したい。
<取材・文/古田島大介>