居眠りを理由に公開処刑。北の独裁者・金正恩の“冷酷な素顔”6つのエピソード
近い様で遠い国、北朝鮮。6月16日には、党第1副部長である金与正氏が以前から予告していた、南西部の開城(ケソン)にある南北の共同連絡事務所の爆破を実行しました。
彼女は、金正恩・朝鮮労働党委員長の実妹であり、今回の爆破の背後にも、北朝鮮の統治者である正恩氏の影響がささやかれています。つい先日死亡説も流れましたが、金正恩(以下、敬称略)の動向や人柄はいまだに謎に包まれています。
北朝鮮の最高指導者である金正恩はどのように地位を固め、どのような人物なのか。米紙『ワシントン・ポスト』北京支局長、アンナ・ファイフィールド氏(※)の著書で、世界20ケ国で出版された『金正恩の実像~世界を翻弄する独裁者~』(2020年4月、訳:高取芳彦、廣幡晴菜)から、知られざる金正恩の素顔を物語る6つのエピソードを紹介します。
エピソード1:特徴的な外見も全て計算済
耳の上まで刈り上げた髪形に、まるまると太った肥満体型――金正恩は一度見たら誰でも覚えてしまうような特徴的な風貌をしています。なぜ、そのような風貌をしているのか、普段私たちは考えません。しかし、この風貌も計算によって作られたもののようです。
「白髪を染めていたサダム・フセインやムアマル・カダフィをはじめ、独裁者たちは自分が老いているという事実や、いつかは死ぬという現実を隠そうとしてきた。しかし、若き独裁者、金正恩がしたことはそれと正反対だった。自分を若く見せようとするのではなく、祖父・金日成のように見せようとしたのである。
たとえば、一九四〇年代のソ連スタイルを再現した髪型をして、足を引きずって歩いた。また、声も祖父に似せ、一日二箱のたばこでしわがれた低く深い声を出した。極めつけは、公の場に姿を見せるたびに太っていったことだ。
彼は祖父をまね、夏には庶民的な白い半袖シャツを着て、冬には大きな毛皮の帽子をかぶった。時代遅れの四角い眼鏡をかけることもあった。そういう外見のすべてが金日成らしい雰囲気を醸し出し、国民に古きよき日々を思い出させたのだ」(前掲書より、以下同)
2011年、27歳という若さで北朝鮮の実権を握った金正恩。しかし、自らの足場を固め、国民の熱狂を強く得るためにも、「国民に愛され、国民を愛する指導者像に沿った写真を撮り、その神話を浸透させたがっていた」といいます。特徴的な風貌はそのためだったのです。
エピソード2:誰とでも抱擁する新しい指導者
古き良き祖父の時代を国民に思い出させることに成功した金正恩。さらに国民の心をつかむための行動を続けます。
「金正恩は、新聞やテレビのなかの自分が国民のよき理解者に見えるよう振る舞った。学校や児童養護施設、病院など、どこに行ったときでも人と触れ合い、にこにこ笑い、子どもから高齢者まで誰とでも抱擁した。農場での現地指導に出向いたときは、子ヤギの頭をなでたりもした。
国営メディアは全国の国民に新たな指導者の感想を訊ね、その様子を盛んに報じた。対象者は無作為に選ばれたとされている。金正恩は『永久に揺らぐことのない朝鮮人民の精神的支柱』と呼ばれ、食品工場から医薬品工場まで、至るところの国民が新指導者に忠誠を誓っていた」
しかし、彼が親しみやすいだけの指導者かと言えば当然そうではないようです。ここから金正恩が地位を固めるまでに行った徹底した粛清(反対派やライバルの排除)を振り返ります。