コロナ下で酒の量が増えた…依存症にならない“適正飲酒”を専門家に聞く
依存症の治療は非常に時間がかかる
――アルコール依存症治療には、どのような道筋があるのでしょうか。
斉藤:依存症の治療は非常に時間がかかります。予備診察のあと、それを元に診断し、診断のあとに、どんな治療を行っていくのかを患者さんの治療反応性を見極めながら決めていきます。
実は選択肢がたくさんあって、週1回程度外来で診察受けて薬物療法中心に取り組んでいく人もいれば、デイナイトケアと呼ばれる方法で、朝から夜まで様々なプログラムを受けて生活を立て直していく生活療法もあります。あとは自助グループという、当事者だけのグループで仲間とともに体験談を分かち合い「今日一日」飲まないためのプログラムを紹介する場合もあります。
依存症は、不適切なストレス対処行動が習慣化したもので、やがてそれが脳内の報酬系に機能不全をもたらします。つまり、脳の病気であり、一種の生活習慣病です。不適切な飲酒習慣を変えていかないとならないので、生活自体を立て直す必要があります。となれば、その人の心の問題だけではなく、生活習慣や、人間関係、金銭的な問題などあらゆるところに及んでいきますよね。
恐ろしい「悪循環のスパイラル」
――今回の著書『しくじらない飲み方 酒に逃げずに生きるには』でも触れているアルコールとうつ・自殺の関連性とはどのようなものなのでしょうか。
斉藤:もともとうつ病の疾患を持っている人が、二次障害としてアルコール依存症に陥るケースと、日ごろからアルコールを多量に摂取し続けるなかで、社会生活を営めなくなり、仕事を失い、信頼を失い、家族が離れていくといった喪失体験を経てうつ病を罹患するケースがあります。
うつ状態だと、「死にたい」「消えたい」「自分なんか生きていても意味がない」など、自己否定的な感情が強くて、そういった自暴自棄ともいえる感情を酒によって一時的に紛らわせようとします。しかし、それは一時的には効果があっても、やがて酒が切れてシラフになったときより一層自己否定感が高まるようになります。オンライン飲み会が終わった瞬間の静けさとさみしさも似ていますが、シラフになったときに感じる、ある種の空しさといえば解りやすいかも知れませんね。そのような状態からまた飲酒を繰り返すようになる。
要は悪循環のスパイラルに陥るということです。電車に飛び込む、ビルから飛び降りる、自宅で首を吊るなど、自殺既遂は多くの場合が飲酒酩酊後発生しているケースが多いのです。だから、うつ病を抱えている人ほど飲酒を控えた方がいいのは、単に抗うつ薬との飲み合わせが悪いだけではなく、自殺企図の引き金になりやすいという事実について多くの方に理解していただきたいと思います。