コロナ下で酒の量が増えた…依存症にならない“適正飲酒”を専門家に聞く
新型コロナウィルスで外出が制限され、鬱々と巣ごもりしているうちに「家で飲むお酒の量が増えてしまった」という声をよく耳にします。
「やることがない、空虚な状態や、外部とのつながりが絶たれた孤独な状況は、過度なアルコール摂取や過食といったアディクション(嗜癖行動)に陥りやすいので注意が必要です」
そう警鐘を鳴らすのは、『しくじらない飲み方 酒に逃げずに生きるには』(集英社)の著者で、大船榎本クリニック精神保健福祉部長(精神保健福祉士・社会福祉士)の斉藤章佳氏。
ソーシャルワーカーとして、長年さまざまな依存症問題に取り組んできた斉藤氏に昨今のアルコール依存症をめぐる現状について、お話をうかがいました。
若い頃からの問題飲酒で、将来、依存症になるリスクも
――コロナ渦のような生活環境の急激な変化にこそ注意が必要とのことですが、若者のアルコール依存症は増加傾向にあるのでしょうか。
斉藤章佳(以下斉藤):社会全体的にみると、最近は若者のお酒離れが進んでいると言われています。特に、ビール離れは顕著です。私が勤務している榎本クリニックでも、若年層がくることはほとんどありません。もし来たとしても電話でアルコール乱用の相談が来るくらいです。
ただ、アルコール依存症のみの相談は少なくても、薬物乱用やギャンブル、摂食障害、自傷行為などが合併している「クロスアディクション」という状態で相談されることが多いのも事実です。
――人はどのにようにしてアルコール依存症に陥るのでしょうか。
斉藤:多くは、若いときから問題飲酒を繰り返している人が40~50代にかけてアルコール依存症を発症します。根本的な要因を探っていくと、まず代表的なのが、「マルトリートメント」といわれる親の不適切な養育環境があります。
端的にいうと、子どもの頃に親から受けた虐待のことですね。身体的・精神的・性的な虐待のほか、ネグレクト(育児放棄)も虐待にあたります。最近よく言われているのが「面前DV」で、子どもが直接暴力を受けないとしても、両親の一方、父(母)親が他方の親に日常的に暴力で支配するところを目撃することで、子どもの脳の健全な発達を妨げる要因になるといわれています。
アルコール依存症には様々な要因が
――子ども時代に置かれていた環境が、成人後のアルコール依存症につながっていくと。
斉藤:他の要因としてよく挙げられるのが発達障害ですね。学齢期の頃に、周りから浮いたちょっと変わった子とか、勉強についていけなかったりとか。そういった原家族で健全な自己肯定感が育むことが出来なかった子どもたちが学校生活に馴染めず、そこからドロップアウトしてやがて社会人になってアルコールにハマっていくケースがあります。一次障害に発達障害があって、二次障害にアルコールをはじめとした物質使用の問題に耽溺するのです。
あとは生育歴ではなく、普通に社会人になって、社会生活でのストレスのはけ口として飲酒を繰り返して、つまり不適切なストレス対処行動が習慣化し、やがて依存症になっていくこともあります。