なぜ人は自粛要請でもパチンコに通うのか?依存症の恐怖を専門家に聞いた
4月に発令された緊急事態宣言では新型コロナウイルス感染拡大の恐れがあるパチンコ・パチスロ店も休業要請の対象となりました。大半が休業するなか、一部のパチンコ・パチスロ店が営業を継続し、大阪府では吉村洋文府知事が名前の公表に踏み切ったことも記憶に新しいです。
なぜ人は自粛要請にもかかわらず感染リスクを冒してでもパチンコにいくのか? そんな疑問をソーシャルワーカーとして、長年さまざま依存症問題に取り組んできた、大船榎本クリニック精神保健福祉部長(精神保健福祉士・社会福祉士)の斉藤章佳氏にぶつけてみました。
前回は、著書『しくじらない飲み方 酒に逃げずに生きるには』(集英社)のテーマでもある、アルコール依存症について聞きました。今回は若者にも多く見られるギャンブル依存症についてお話をうかがいました。
なぜギャンブル依存症に陥るのか
――パチンコ、パチスロを好む若者も少なくないと思いますが、ギャンブル依存症に陥るのにはどのようなメカニズムがあるのでしょうか。
斉藤章佳(以下、斉藤):若い人でパチンコ、パチスロにハマる人は多いですよね。ギャンブルもアルコールと同様にストレスへの対処行動という側面がありますけど、始めて間もない頃に成功体験をしてしまうことが陥りやすいひとつの要因といえるでしょう。
わたしはギャンブルこそ、仕組まれたアディクション(嗜癖行動)だと捉えています。ギャンブリング行動で刺激を受けた脳内では、神経伝達物質であるドーパミンが最初は過剰に放出されます。しかし、ギャンブルが習慣化していくと今までと同様の刺激ではドーパミンの放出量が弱くなり、人間の報酬系と呼ばれる部分はより強い刺激を求めるようになります。これをドーパミンの耐性といい、この状態になるといわゆる「条件反射としてのギャンブリング行動」となり意志の力でギャンブルに関連する行動や衝動の制御が困難になります。
私は学生時代パチンコ店で1年半ほどアルバイトしていましたが、パチンコの原理原則として、絶対に店(運営)側が儲かる仕組みになっています。当時は釘の調整を店長自らやっていました。それを見て、なぜ勝てないのにみんなパチンコやるんだろうと考えていました。もちろん最初からずっと負けて続けていたら人はハマらないですが、一方で、ずっと勝ち続けるということはまずない。ハマるメカニズムとして「運」と「努力」の両者のバランスが絶妙なのがパチンコやパチスロなのです。運だけでは勝てないし、一方で努力だけでも勝てないのがギャンブルです。
依存症を自覚させるには
――斉藤さんの著書で、依存症は“否認の病”とおっしゃっていましたが、当事者に依存症であることを自覚させる有効な手段はあるのでしょうか。
斉藤:難しいところですね。それは「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」という言葉通り、あくまで本人次第というところで、他人の力だけでどうこうできるものではありません。
依存症は、放っておけば放っておくほどコントロールを喪失して悪くなるもの。状況が悪くなると平行して本人自身も痛みを感じ、習慣や行動を見直さざるを得なくなります。持続的な関わりの中で、再発を繰り返しながら、時間とともにようやく本人に自覚が芽生える。ここまででも、相当な時間がかかります。援助者側には、回復を焦ることなくこのプロセスに根気よく付き合える人が向いていると思います。