なぜ33歳公認会計士が老舗出版社の社長になったのか?[KKベストセラーズ元社長・初告白]
突如、社長を退任することになった経緯
――社長からいきなりDMが来たらびっくりしますよ(笑)。でも、お話を聞いていると、塚原さんの方針は出版社としてすごくまっとうですよね。要するに「自分たちでスターを発掘して育てよう」ってことですから。
塚原:まさしくそうです。正直、出版社のビジネスは博打みたいなものじゃないですか。それだったら大手が抑えないところにいかないと、勝てる要素がないですよね。
――しかし、それだけ事業にコミットしていたのに、今は社長を退任されている。
塚原:先ほどお話ししたように、もともとファンドは買収先を探していました。それで今年(2019年)に入って無事、新しい株主が見つかったのですが……。結局、新しい株主の目指す方向性が私と違っていたんです。“雇われ社長”という私の立場は変わりませんから、ぶつかっても切られるだけです。また、せっかく社内がまとまってきたところに新たな火種を持ち込むつもりもありませんでした。だったらせめて友好的に、と身を引くことにしたんです。
「また社長をやりたいとは思えない」
――なるほど。「道半ばで悔しい」という思いはありますか?
塚原:ありますね。やっぱり、出版の仕事は面白かったですよ。今は公認会計士の仕事に戻っていますが、KKベストセラーズでの経験の刺激が強すぎて、どうしても日々がつまらなく感じてしまう(笑)。散々揉めた社員の方々とも、最後の頃には「いろいろあったけど、一緒に頑張っていきましょう」という話ができるようになっていましたし。「もっと自分にできることがあったかもしれない」という思いは、未だにあります。
――では今後、同じような相談があったときは、また社長をやってみたい?
塚原:断りますね、残念ながら。企業の厳しい局面に関わることって、いろんな負の感情を一身に受ける経験なんです。自分はそういうことに対して耐性があったんですけど、今回の件は、私自身も将来について真剣に考えたほど強烈な経験でした。
――外部からやって来たにもかかわらず、会社に骨を埋める決意をされていたわけですからね。
塚原:だから、困っている経営者がいればアドバイスはしますけど、「また自分でやりたい」とは思えないです。いろんな人の人生を巻き込んで、いろんな人の人生を変えてしまう。本当、因果な仕事です。
<取材・文・撮影/小山田裕哉>