なぜ33歳公認会計士が老舗出版社の社長になったのか?[KKベストセラーズ元社長・初告白]
2018年、週刊誌などでも報じられた老舗出版社「KKベストセラーズ」の身売り騒動。オーナー社長の栗原武夫氏の辞任と同時に、取締役7名が辞任し、新社長に就任したのが塚原浩和氏(33)だ。
これまでメディアのインタビューに応じることはなかった塚原氏だが、今回、初めて取材に応じた。
塚原氏は社長就任後、当サイト「bizSPA!フレッシュ」でもおなじみ「全宅ツイ」(全国宅地建物取引ツイッタラー協会)の初の著書を2019年10月に同時に6冊刊行し、そのほかにも日本マクドナルドの創業者として知られる“伝説の起業家”藤田田の著作全6冊を連続で復刊するなど、出版不況の只中にあって攻めの企画の数々を手掛けていた。
しかし、もともとは編集者ではなく公認会計士。2018年2月1日にKKベストセラーズの社長に就任する前は、出版事業に関してはまったくの素人だった。なぜ、老舗出版社の社長になったのか? そして、なぜ異例の刊行プロジェクトを次々とプロデュースしていったのか? 話を伺った。
「正直、社員の反発は強かった」
――KKベストセラーズは50年以上の歴史を持つ出版業界の老舗です。そんな出版社の社長に塚原さんが就任された経緯とは?
塚原浩和(以下、塚原):私のバックグラウンドは公認会計士で、経営難の企業の再生や廃業支援をする仕事をしていました。経営者は経営のプロかもしれないけど、深刻な状況になったときにどうするかというノウハウは持っていません。そういう企業の中に入ってアドバイスをするのが私の役割で、必要に応じて雇われ社長をやることもあったんです。
KKベストセラーズは赤字が長年にわたって積み重なり、当時のオーナーが会社の買い手を探している状態でした。ただ、出版不況ということもあって買い手がなかなか見つからない。かなり報道もされたのでお話しますが、これは労働組合との関係がうまくいってなかったことも大きかったです。
そういう経緯がすでにあった中、知り合いの方を通じて、「なかなか買い手が見つかっておらず、オーナーが悩んでいる」という相談がありました。それで「僕がお手伝いしますよ」と手をあげたのが最初のきっかけです。2017年の夏頃でした。
――それは最初から塚原さんが社長になる、という前提があったのですか?
塚原:社長になる話が出たのは、買収の主体となってくれるファンドからの依頼ですね。そもそも私は雇われ社長ですから、会社の株は1株も持ちません。あくまで経営のプロとして関わるだけです。
でも、KKベストセラーズの社員からしたら、僕がハゲタカファンドの代表として、金儲けのために会社を潰しに来たように見えますよね。労働組合が突撃してくるリスクも踏まえて、ファンドは名前を一切出しませんでした。だから、反発はとても強かったです。正直、就任当日は会長室に社員数十名が突然乗り込んできて、罵声が飛び交うような状況でした。
「会社に骨を埋める決意をした」
――出版業界の外から来たということも反発を強めた理由だった?
塚原:それもあったと思います。就任しばらくは「出版事業に興味もないくせに、なんだこいつは」という反応でした。ただ、僕の立場としては雇われているファンドにリターンを出さないといけない。そういう説明を労働組合の方々にして、出版事業を存続できるEBO(従業員による企業買収)の方向で話を進めていきました。
――従業員に株式を買ってもらい、そこでファンドに利益を返すという方法ですね。
塚原:でも、思うようにEBOの話が進まず、社内からもいろんな意見が出て、社員同士が対立するようになってしまいました。それまでは極力、従業員主導でお任せし、事業の中身にはタッチしないようにしていたんです。でも、このままでは目の前で会社が分裂してしまう……。そこで私も腹を決めて、「責任を持って会社をなんとかしていくので、私に任せてください」と、部署長の前でお話をしました。