全ハリウッドが揺れた降板騒動も…「世紀の誘拐事件」映画化の結末
このところ世界中で社会現象となっている「#MeToo」の発端であるワインスタインのセクハラ問題が発覚したのが、2017年10月。
そして、その直後に入ってきた衝撃のニュースがケヴィン・スペイシーの性的暴行疑惑でしたが、これによりゲティ役を急遽降板。
といっても、すでに撮影済みで全米公開の1か月前であったこともあり、一時は公開も危ぶまれることに……。
巨匠リドリー・スコットの決断が本作を救った
そんななか、リドリー・スコット監督が撮り直しを決断し、わずか9日間で再撮影を行って完成させたのがこの作品。
その結果、お蔵入りを免れるだけでなく、数々の賞にノミネートされるという映画さながらの大逆転劇を繰り広げたのです。
これほどの短期間でここまで仕上げてくるあたりは、巨匠と70年近いキャリアを誇る名優だからこそなせる業。
そんな涙ぐましい努力の甲斐もあって、この作品に対するネガティブな印象も払拭できたと思いきや、その後、ゲイルを演じたミシェル・ ウィリアムズと誘拐の交渉人役を務めたマーク・ウォールバーグとの再撮影におけるギャラの格差が発覚。
ハリウッドの男女の賃金格差問題とは?
しかも1000ドル(約11万円)のミシェルに対し、マークはその1500倍にあたる150万ドル(約1億6000万円)だったというから驚き。結局、マークはセクハラ撲滅運動をしている「Time’s Up」の基金にミシェルの名義ですべてのギャラを寄付することで、騒動を収束させたのです。
セクハラ問題と男女の賃金格差問題という、いまのハリウッドが抱える最大の課題と向き合わざるを得なくなった本作。とはいえ、観客にとっては、お金とは何か、家族とは何か、そして幸せとは何かという普遍的な問題とも向き合わせてくれる人間の闇をあぶりだした傑作となっています。
大きな代償を払わされる形にはなったものの、巨匠リドリー・スコットの熟練した演出は見事であり、サスペンスとしても一見の価値あり。いまの映画界をザワつかせたという話題性においても必見です!
<TEXT/志村昌美>