外資コンサルを蹴った東大卒社長が「書籍の朗読アプリ」にかける理由
書籍の朗読をスマホで聞けるアプリ「audiobook.jp」の登録者数が、100万人を超えた。
Amazonが運営する同様のサービス「Audible(オーディブル)」も会員数を伸ばしているという。日本には書籍の朗読CDがあまり普及しておらず、欧米に比べて「朗読を聞く」習慣があまりなかったが、どうやら風向きが変わりつつあるようだ。
「audiobook.jp」を運営する株式会社オトバンク代表取締役社長の久保田裕也氏に話を聞かせてもらった。
久保田氏は1983年生まれの36歳で、神奈川県の名門中高一貫校である聖光学院中学・高校を卒業し、東京大学経済学部に進学。大学卒業直前に外資系コンサルタントの内定を蹴り、新卒でオトバンクに入社後、2012年に社長に就任した。
当初はベンチャーに興味がなかった
――オトバンクって、久保田さんが作った会社なんですか?
久保田裕也(以下、久保田):いや、もともとは大学でゼミの同期だった上田渉(オトバンク会長)が始めた会社なんです。上田の祖父は緑内障で視力を失い、本が読めなくなって苦労していたそうです。当初は目の不自由な人のために対面朗読をしたり録音コンテンツを作るNPOの立ち上げを検討していたのですが、ユーザーが限られていたため、市場として成立するのは難しいという懸念がありました。安価にコンテンツを提供するには、多くのユーザーを獲得して市場を創る必要があったため、2004年にオトバンクを設立しました。
私は就活中だった2005年の春に上田から誘われて、オトバンクの仕事をボランティアで手伝い始めました。当時は全然興味なかったんですが、冷やかし程度の軽い気持ちで加わってみたんです。正直最初は「失敗しそうなベンチャー企業でも勉強にはなるかな」ぐらいの気持ちでした。
会社員では一生食っていけない気がした
――東大卒で外資コンサル内定って、めちゃめちゃエリートじゃないですか。なんで内定蹴っちゃったんですか?
久保田:企業に就職しても、一生食っていけない気がしたんです。私の父親は国家公務員だったんですが、家では母親に仕事の愚痴を吐きながら、子供たちには「お前ら、年金もらえなくなるぞ」と言うんです。もらえるとしても、今よりも制限が加わることになると。それで75歳とかまで働くとしたら、50年間も会社員やれるかな、と思ったんです。
それと、当時は日本の大企業が自前のコンサル部隊を持ち始めていたので、20年先の未来を予測するといった壮大なテーマ、言い換えれば漠然としたテーマの案件をこなさないといけなくなります。その結果どうなるかというと、さまざまなデータをリサーチする必要に迫られます。例えば、3年後のオトバンクについて考えるなら調べることは限られますが、10年後のネット業界についてとなると、膨大な広がりが出てきますよね。
そうした状況では、若手コンサルタントには論理的思考や分析力よりも、市場調査や現状リサーチを求められるようになる。うまくいかなければ、代替可能な人員として“コモディティ化”してしまうかもしれないという不安がありました。本当に自分はなにがやりたいのという疑問が消えず、大学4年の11月から、しばらく海外放浪をして、頭を整理することにしたんです。