ネットで「手取り15万円」が論争に。日本人のリアルな給与額は?
企業規模ではなく、雇用形態の問題
今度は、雇用形態の軸で給与カーブを見ていきます。結論から言うと、非正規雇用の場合は「手取り15万円」レベルの生活がずっと続く可能性が高いです。
正規・非正規の区切りで、雇用形態別の給与カーブを見ると、非正規の給与カーブは一向に上昇していないことがわかります。しかも賞与は基本的に想定されず、年収も200万円程度で推移しつづけるので、手取りに換算すると、月収15万円以下の生活が続くようです。
■年齢別給与カーブ(雇用形態別)
非正規雇用の割合は1980年代から継続して増え続けており、民間事業者に勤める労働者の割合は40%に届く勢いです。昨今この数値を押し上げているのは、60歳以降のリタイア世代ですが、25~34歳でも非正規の割合は28.4%におよび、ほぼ3人に1人が非正規の状況であると言えます(総務省統計局、「労働力調査(基本集計)」)。
「手取り15万円」問題に対しての対策
手取り15万円が日本中に蔓延しているという状況が、企業規模ではなく、雇用形態の問題であることがわかったと思います。ここで、最後に手取りを増やすための対策を見ていきましょう。
その方法は、収入を上げることと、控除を増やして税金や社会保険料や厚生年金の支払料を減らすことに大別できます。
1. 転職して収入を増やす
「手取り15万円」の生活が続くケースは、非正規の場合であることが大半でしょうから、年収を上げたい場合は、正規雇用になることが最も近道です。とはいっても、現在の契約先ですぐに雇用形態を変えてもらえることは難しいでしょう。
よって取るべきアクションは転職になりますが、ここでのポイントは業界を意識することです。筆者の知り合いで、アパレルの小売から、小売向けのシステム営業にキャリアチャンジした人がいました。もちろん正規雇用です。
IT業界は、人手不足である会社が多いため、最初は非正規雇用ではありますが、未経験の人間を採用してくれることがあります。その人も、アパレル小売から、非正規のシステム営業、さらに他の会社に転職して正規雇用となることができました。
これは一例ではありますが、業界全体が成長している業界の場合は、人手不足のため他の業界よりもチャンスがあり、また、収入も高めです。正規雇用への転換や転職を考える際は、このポイントをおさえておくとよいでしょう。
ふるさと納税、扶養控除…控除制度を活用する
2. 控除を増やして手取りを増やす
手取りを増やすもうひとつの方法は、控除を増やして税金や社会保険料などを下げることです。以下で紹介する制度は比較的有名な制度です。
■ふるさと納税
地方自治体に寄付をすることで返礼品をもらえるとともに、寄付した金額から2000円を差し引いた金額を所得税および住民税から還付・控除できる制度です。名前こそ知られているものの、実際の利用者は少なく、2018年でも日本の就労人口6000万人超のうち5%しか利用していません(総務省、「ふるさと納税にかかる現況調査結果」)。単身の月収20万円であれば還付率30%の場合は年間で4000~5000円の返礼品を受け取れるので見逃す手はありません。
■iDeco(確定拠出型年金)
個人が掛け金を積み立てられる制度で、原則20~60歳なら利用でき(企業型DCの場合を除く)、積み立てた金額は、所得控除の対象になります。また運用で得た利益も非課税になります。
■生命保険控除
死亡保険、学資保険などの保険料を、所得税や住民税から控除できる一般生命保険料控除をはじめ、介護医療保険料控除、個人年金保険料控除などがあります。保険に加入している人は知っておいて損はありません。
■医療費控除
控除を受ける人が、自分または自分と生計を一にする配偶者、その他の親族のために支払った医療費が10万円(総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%)だった場合に利用できます。実際に支払った医療費などの合計から健康保険・入院給付金および、10万円を差し引いた金額が対象になります。通常利用するものではないですが、有事の際のために知っておいて損はない制度です。
■配偶者控除
2018年に法改正され、扶養家族の妻の合計所得金額が38万円以下(パートやアルバイトは103万円以下)かつ、控除を受ける給与所得者の合計所得金額が1000万円未満であれば、38万円の配偶者控除が受けられます。
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手取りを増やすにはこうした控除をうまく活用するのが有効です。ただし、手取り15万円といった低賃金労働から抜本的に脱出するためには、正規雇用への転換や転職などを通じた収入の向上を図るのが本筋でしょう。
年収が低い場合は、控除などの効果も少ないので、補助的な位置づけとして参考にしてもらえればと思います。
<TEXT/飯田隆太>