ブームのぬか漬け男子「心がリセットされる」と癒し効果も
――日常生活で、やっぱりぬか漬けのことは気にかけていますか?
本田:そうですね。僕の場合は、ある意味では生活の中心になっているので、どうしても逆算しちゃうんですよ。仕事へ出かけるとなると家を空けなければならないので、一緒にいられるのはせいぜい数時間。経験則ですけど、自分で納得できる素材の味が引き出されている瞬間はほんのわずかなので、起きてからいつ仕込むかとか、何時に帰れるかという計算がどうしても必要になってくるんです。
だからといって、あらかじめ取り出しておくと酸化が進むのか、色が悪くなったりおいしくなくったりもして。そんなときは古漬けといって、さらに漬けるという方法もなくはないんですけど、やっぱり“旬”というのは一瞬なので難しいですね。
ぬか床には愛情を注ぎ、ストレスはぶつけない
――仕事が終わり、ぬか床とふれあっているときは何を考えていますか?
本田:ぶっちゃけ、何も考えていないですね(笑)。でも、それにもきちんとした意味があると思っていて。ぬか床に手をつっこむときは、とにかく愛情を注ぐように気を付けていて、ストレスをぶつけないようにしているんです。ほら、植物にクラシックを聴かせるみたいな迷信ってあるじゃないですか。それと一緒で、おいしく漬かって欲しいから無心で向き合うようにしているんです。
仕事で上手くいかなくなったり、イライラする日もあったりはするけど、ぬか床をかき回していると不思議と心がリセットされるんです。それこそ仕上がりが納得する味になっていると「君だけは僕を裏切らなかった!」と思わせてくれるというか。仲良くなるならないみたいな意思疎通もある気がして、自分にとっては日常の癒やしですね。
ぬか漬けに癒やしを求める生活もアリ?
――端々でぬか漬けへの愛が伝わってきたんですが、最後に、今の自分にとってぬか漬けはどんな存在ですか?
本田:どうなんでしょうね。自分なりにはペットに近い存在かな。正直、生きていくことだけを考えれば、必ずしもなくてはならないわけではないんですよ。でも、本来飽き性だったはずの自分が、3年間も何かを続けられているのも人生で初めての経験で。ここまで手塩にかけて育てているモノも、他にないんですよね。
ぬか漬けって、同じ作り方をマネしても住んでいる環境や、人それぞれの体温なんかも関係しているのか、まったく一緒の味というのは再現できないんです。たぶんそれは、僕がまた新しく作り直したとしても言えることだろうし、今、目の前にいるぬか床とこれからも同じ屋根の下で暮らしていきたいなと思います。
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インタビューの終盤にふと「ぬか床が盗まれたら?」と尋ねたところ、本田さんは「世にひとつしかないモノなので、たぶん二度と作らない」と話していました。今回のお話を通して分かったのは、人とぬか床はたがいに愛情を確認しながら、寄り添える仲間でもあるということ。日常生活に疲れたとき、ぬか漬けに癒やしを求める生活も案外アリかもしれません。
<取材・文・撮影/カネコシュウヘイ>