総合経済対策【やさしいニュースワード解説】

在京の大手メディアで取材記者歴30年、海外駐在経験もあるジャーナリストが時事ニュースをやさしく解説。今回は、「総合経済対策」です。
物価高対策で積極的な財政支出
政府は高市内閣になって初めてとなる総合経済対策をまとめこのほど発表しました。財政支出の純増分、いわゆる「真水」の規模は21.3兆円に上ります。経済対策の柱は3つあり、第一の柱は家計や事業向けの支援となる「生活の安全保障・物価高への対応」、第二の柱は「危機管理投資・成長投資による強い経済の実現」、そして第三の柱を「防衛力と外交力の強化」としました。
第一の家計や事業向け支援については物価高対策を重点に置き、ガソリン暫定税率の廃止による一世帯あたり年間約1万2,000円の負担軽減や、1月から3月にかけて電気・ガス代の支援を行い、3カ月で7,000円程度の負担軽減策を盛り込みました。
また、所得税のいわゆる「年収の壁」の見直しを行い、基礎控除引き上げなどの所得減税により納税者1人あたり2万~4万円の減税を行うほか、子育て世帯の支援のため0歳から高校3年生までの子ども一人あたり2万円を支給する方針です。
さらに各地方自治体の判断でプレミアム商品券やおこめ券などの配布を想定した食料品価格の高騰に対する特別加算や、小中学校などにおける給食費の支援、 水道料金の減免などが行える「重点支援地方交付金」の拡充なども実施することになりました。
事業向けは、赤字の医療・介護施設に報酬改定を待たずに前倒しで補助金を措置する処遇改善や、医療機関の物価高騰対策、病院の建て替え支援などの経営改善支援のほか、中小・小規模事業者向けの支援も行います。
危機管理投資に関して新たな枠組みを検討
第二の柱の危機管理・成長投資による強い経済の実現については、 高市首相の持論である戦略的な財政出動の考え方に基づき、経済安全保障上の重点分野の危機管理投資に関して新たな枠組みの検討に着手するなどの対策を盛り込んでいます。
例えば半導体分野における官民投資の促進や、造船業向けの複数年度の公的支援、情報通信関連では海底ケーブルの地方分散立地などをあげています。
政策の課題を指摘する声も
これら一連の政策に関しては、その効果や支援対象を十分精査しないまま財政出動を膨らませているとするいわゆる「バラマキ批判」もあります。 子ども一人あたり2万円を支給する政策は、子どものいない世帯などには不公平感がありますし、自動車を保有していない世帯はガソリン暫定税率廃止の恩恵をあまり受けられないことになります。また冬季の電気・ガス代の補助は、所得水準に関係なく 一律に行う問題点を指摘する向きもあります。
高市首相の拡張的な経済政策をめぐって、最近の金融市場では財政の悪化懸念から円安・株安・債券安が同時に起こる「トリプル安」の状況に一時陥りました。特に急激な円安の進行は輸入物価の高騰を招くなどの悪影響が強まっています。市場関係者の間からは「円安進行を止めないと物価高に歯止めがかからない」と指摘する声が上がっています。
高市首相にとっては、 経済対策の実効性を上げるとともに、金融政策を担う日本銀行との対話もしっかり行い、 マーケットの信任を得られるような政策の実現が求められています。