半導体競争で中国が勝つと国防の危機も。世界の半導体レースが行き着く先は?
なにかと「半導体」という言葉を耳にする1年だった気がする。半導体が不足しているだとか、半導体競争が米中間で激しくなっているだとか、半導体分野で中国に対し日本が輸出を規制したというニュースもあった。
この半導体をめぐるニュース、行き着く先には何が待っているのか。例えば、先端半導体の競争で米国ではなく中国が勝つと、どのような未来が待っているのか。
そこで今回は、日本を巻き込みつつ中国と米国が中心となり繰り広げている先端半導体競争の行く末を、和田大樹さんに教えてもらった。
和田さんは、Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、日本カウンターインテリジェンス協会理事、ノンマドファクトリー社外顧問、清和大学講師、岐阜女子大学南アジア研究センター特別研究員など数々の職務を兼任し、国際安全保障、国際テロリズム、経済安全保障などを専門とする人だ。
来年以降のニュースを深く理解するためにも最後までぜひ読んでもらいたい(以下、和田大樹さんの寄稿)。
輸出規制に踏み切った日本の事情
今年も終わりが近づいてきた。日本にとって最大の貿易相手国である中国に関するニュースが今年もたくさんあった。
例えば、今年3月、先端半導体の製造装置など23品目で中国への輸出規制を開始すると日本政府が発表したニュースがあった。
実際は、7月下旬から輸出規制が開始されたが、14ナノメートル幅以下の製造装置、露光装置、洗浄・検査装備などが対象となった。
中国との安定的な関係は日本経済にとっても重要だ。日本企業関係者の多くも経済分野において、難しい政治の影響を最大限受けるべきではないと感じているはずだ。
しかし、中国側の不信感が高まると分かっていて、日本政府は輸出規制にどうして踏み切ったのか。その背景には、安全保障上の重大な理由があったからだ。
軍のハイテク化に先端半導体は必需品
輸出規制の発端は、2022年(令和4年)10月にさかのぼる。米国のバイデン政権が、中国の軍事技術の向上に先端半導体が利用される恐れがあるとして、先端半導体分野での対中輸出規制を強化した。
米国が規制を強化した理由は簡単だ。21世紀に入り、経済力と共に、ものすごいスピードで軍事力を中国がアップさせている。その軍事力は日本を追い抜き、いつかは米国に追いつく(その後は追い抜く)とも言われる。米国は、その未来を強く警戒している。
先端半導体は、AI(人工知能)やスーパーコンピューターなど軍のハイテク化を強化するにあたって必需品である。
先端半導体を中国がフル活用し、自国で大量生産できるようになれば、中国軍のハイテク化が一層進むと米国は警戒している。ハイテク化が進めば、これまでのように米軍が対処できなくなるリスクも浮上する。
中国軍のハイテク化が進めばさらなる現状変更も
中国軍のハイテク化の脅威に直面する国は米国ではない。このシナリオに真っ向から向き合わなければいけない国は日本だ。
今でさえ、台湾有事をめぐる軍事的緊張が続いている。尖閣諸島では、中国公船の領海侵入が毎日のように見られる。
中国軍のハイテク化が進めば、さらなる現状変更は避けられない。日本の安全保障にとって深刻な脅威となる。誰の目にも明らかだろう。
先端半導体により、超音速ミサイル、自律型ロボット兵器、AI兵器や自律型誘導兵器を中国が製造し、使用する未来は想像したくない。
今年の7月から、中国への輸出規制を23品目で日本が開始した理由も、そうした未来を避けるためだ。
中国への輸出規制を昨年10月に強化した米国は、日本にも協力するように今年1月要請した。米国単独の規制では、中国の先端半導体獲得を防止できない恐れがあるからだ。
日本にとって「NO」という答えはなかったはずだ。未来の安全保障環境を日本としても真剣に考える機会となった。
日本の最先端技術が中国に渡り、その技術を中国が軍事利用し、ハイテク化された兵器が日本周辺で実践的に利用されれば、自らの首を日本は自分で絞めたと等しい。
2024年(令和6年)以降の中国をめぐる半導体のニュースには、以上のような背景知識を持って関心を持ちたい。
[文/和田大樹]