縁起の良い初夢「一富士二鷹」、なぜ“茄子”が3番目に選ばれたのか
戦国時代に活躍した「武将」と言われると、常に死と隣り合わせで、戦さと権力闘争に明け暮れているイメージだ。しかし、植物学者、稲垣栄洋氏は「戦国武将たちが植物を愛していた」と語る。戦国武将にとって植物を知ることは実利的な意味もあったのだ。
今回は、武将や武士たちと植物との知られざる関係に迫った、稲垣氏の著書『徳川家の家紋はなぜ三つ葉葵なのか』より「戦国武将はなぜ草食系の食事で戦い続けられたのか」にかかわるパートを一部抜粋、再構成してお届けする(以下、同書より抜粋)。
初夢に見ると良い野菜の謎
正月の初夢に見ると縁起が良いとされるものに「一富士、二鷹、三なすび」がある。富士山と鷹は、何とも縁起が良さそうだが、どうしてなすびが入っているのだろう。この由来には諸説ある。1つは徳川家康が好きなものを並べたという説だ。家康は鷹狩りが好きだったし、初物のナスも献上されていた。1612(慶長17)年の正月には、駿府に隠居した家康に初物のナスが献上されたという記録がある。
あるいは、家康が隠居をした駿河国の「高いもの」を並べたという説も有力である。富士山は日本一高い山である。二番目の鷹が高いとはどういうことなのだろう。鷹は駿河にある「愛鷹山」のことであるとされている。愛鷹山は富士山の南側にある。世界文化遺産の富士山の構成遺産として知られる三保の松原からは、海越しに富士山と愛鷹山を望むことができる。
初物のナスが「賄賂」になることも
それでは、3番目のナスが「高い」とはどういうことなのだろう。これは初物のナスの値段のことなのである。江戸時代、駿河では温暖な気候を利用して、ナスの促成栽培が盛んだった。それがやがて、馬糞や麻屑などの有機物の発酵熱で加温し、さらに株のまわりを油紙障子で囲うという現代のハウス栽培顔負けの方法で、夏の野菜であるナスの初成りを旧暦の正月である2月にまで早めた。
それだけ手間をかけていれば当然、値段は高くなる。初成りのナスは1個1両で、大名が縁起物として儀式に使ったり、将軍家に献上されるような高級品だったと言われている。中には、初物のナスが賄賂に使われることさえあったという。
「せめて夢の中では正月にナスを食べてみたい」と庶民が願うのも当然のことだったのだ。