コロナ禍でパッケージデザインに“定番返り”が。AIが変える「商品開発の最前線」とは
近年、ビジネスにおける幅広い分野で、DX(デジタルトランスフォーメーション)化の流れが強まっている。DXは、ビッグデータやAI技術を活用して人々の生活を革新的に向上させるものとして期待され、経済産業省も『DX推進ガイドライン』を発表するなどして後押しする。さらに、新型コロナウイルス対策によるオンライン決済やリモートワークなどの急増に伴い、DX推進に取り組み始めた企業も多いという。
こうしたなか、最新のAI技術を活用したサービスで、多くのヒット商品の開発に携わってきたのが、株式会社プラグだ。東京都が主催し、革新的で将来性のある新しい製品・技術、サービスを表彰する『Tokyo Contents Business Award』で奨励賞を受賞するなど注目を集める同社の代表取締役社長を務める小川亮氏に、商品開発現場のDX化の流れと、これからの時代のキャリア形成について話を聞いた。
「デザイン思考」をベースにした商品開発支援
同社では現在、市場調査、デザイン評価、パッケージデザイン生成、そして製品開発支援といった幅広いサービスを提供している。創業時はデザイン会社だった同社がマーケティングリサーチ会社と合併し、事業を広げた背景について、小川氏は「デザイン思考のメリットを実感していたため」とし、次のように説明する。
「デザイン会社だった当時、ある商品をリニューアルするプロジェクトで、リサーチ会社と一緒に仕事をする機会がありました。この時、非常に質の高い仕事ができたんです。市場調査をするだけ、デザインを作るだけというシンプルな依頼ではなく、『もっと良い商品を』『今ある課題を解決したい』といった、より高度な要望に対しては、デザインとリサーチが一緒に取り組んだほうが、質の高いサービスを提供できると実感しました。
また、デザイナーが使う思考プロセスを活用し、前例のない課題や未知の問題に対して最適な解決を図るという、いわゆる『デザイン思考』が注目され始めたタイミングだったのも後押しになりました。実際に合併後、デザインに詳しいリサーチャー、リサーチに詳しいデザイナーが多く育ち、客観的なエビデンスをもとにした質の高いデザインをロジカルに作れるようになったと思います」
また、この「デザイン思考」を基礎にした、リサーチとデザインによる複合的なサービスを開始してから、顧客の依頼内容の変化に気づいたという。
「今までにないような商品を、どうやって出していこうかというイノベーティブな商品のデザイン開発の依頼が増えました。『単純に売れるもの』というだけでなく、『社会への新しい価値観の投げかけ』をいかに伝わりやすく表現するか、といったご依頼や相談が増えました」
1000万人のデータを蓄積したAI
さらに、2019年からは最新のAI技術を活用したサービスの提供も始めた。パッケージデザイン案の画像をアップすると、1000万人もの消費者データを蓄積したAIが、たった10秒で消費者評価を予測するほか、1000ものデザイン案を生成するという。
「ターゲットとなる消費者の性別や年代を指定すると、10秒で、好感度が示されます。そのほか、デザインの中のどの部分に好感を持たれるのかを可視化したヒートマップや、『おいしそう』『かわいい』『爽やか』など19のイメージワードを使った印象予測、さらに好感度のばらつき(標準偏差)予測も知ることができます。
また複数のデザイン案をアップすると、AIが1時間かからず1000案ものデザイン案を生成し、その中で好意度順、かわいい順、などのイメージワードを指定して、トップ100を抽出して見ることなども可能です。このAIは、『良いデザインとは何か』という我々の20年間のノウハウを学習させ、消費者データの数やカテゴリーを増やすことで、精度を高めてきました」