東京赤羽の小さなお店が、コロナ禍で「無料弁当」を配り続ける理由
新型コロナウイルスの感染拡大が本格化してから1年が経過。経済が停滞し、失業者数が増え続けている。総務省の労働力調査によると、2021年1月に「勤め先や事業の都合による離職」をした完全失業者数は約38万人。2020年の同月に比べて約18万人も増加した。これに伴って増えつつあるのが、生活困窮者だ。
東京都北区の赤羽には、職や家を失った生活困窮者に無料弁当をつくり続けている店がある。店の名前は「ソーシャルコミュニティめぐりや」。JR赤羽駅の東口から徒歩5分、めぐりやは「赤羽スズラン通り商店街」の一角にひっそりとたたずんでいる。アットホームな店内は、地元民の憩いの場として人気だ。
4月某日に店を訪れると、時短営業のため20時で閉店となったが、店の灯りが消えることはなく、数人の男女が手際よく弁当づくりを始めていた。めぐりやでは毎日21時半ごろから、40食分の無料弁当を生活困窮者に提供している。いまも毎日つくり続けられているめぐりやの「無料弁当」。そこにはいったいどのような経緯や想いがあるのだろうか。店主の橋本弥寿子さん(68歳)に話を聞いた。
店に集まる人々からコロナ禍の苦境を感じ取る
無料弁当のきっかけは、かつて路上生活を送っていた90歳手前の女性だという。その女性は5年ほど前から店に顔を出すようになり、やがて、“ばあちゃん”と呼ばれて皆に慕われるようになった。
「ばあちゃんは赤羽で約20年間、路上生活を送っていたんです。だからこのあたりに知り合いが多くて、いろいろな方々を連れてきてくれます。なかには路上生活をしている方や、生活保護を受けている方もいて。そういった方々がコロナ禍で大変な思いをしているのをお店で聞いていました」
弥寿子さんはコロナ禍の苦境を、店に集まる人々の会話や表情から肌で感じていた。「社会福祉を勉強し、ソーシャルワーカーとして働いていた経験もあるので、自分にできることを何かしなければ」と考え、行動に移す。
炊き出しを見学し、アドバイスを受ける
2020年5月、生活困窮者に対する自立支援を行う特定非営利活動法人・TENOHASIの炊き出しを池袋で見学。関係者に「まずはおにぎり配りから始めたらどうか」とアドバイスを受けた。
それから約1か月後、店でつくったおにぎりを公園や街中、駅周辺で配り始める。ただ闇雲に歩いても意味がないので、“ばあちゃん”に案内してもらいながら、40食分のおにぎりを生活困窮者に届けた。
その後も月に1回、コツコツとおにぎりを配り続けた。そして季節はあっという間に寒い冬を迎える。年の瀬が近づくにつれ、弥寿子さんはある疑問が頭に浮ぶようになった。
「普段おにぎりを渡している方々は、年末年始をどうやって過ごすんだろうって。年末年始は、周りのお店もうちのお店も休んでしまうから、とても心配になりました」