ついに死者まで…香港デモはなぜ過激化するのか。現地記者に聞く
2019年6月から始まった香港の反政府デモ。11月8日にはデモに参加していた香港科技大学の学生が建物から転落し、痛ましくも初の死者が出る事態となった。
12日には、香港中文大学で警官との大規模な衝突が発生。学生自治が行われる大学に警察が介入することは異例である。
なぜ香港の反政府デモはここまで長期化しているのか。そして警官とデモ隊の衝突が過激化する中、収束する見込みはあるのだろうか。今回bizSPA!取材班では、現地でデモを取材するライター西谷格さんに話を聞いた。
「送中条例」への反発。反政府デモのきっかけ
ことの発端は、2019年2月に香港政府が改正を提起した「逃亡犯条例案」によるものである。
「2018年2月に香港人の男性が台湾で恋人を殺害し、逮捕される前に香港に逃げ戻ったという事件がありました。当初、台湾は香港に対して男の身柄引き渡しを求めましたが、両者間に犯罪引き渡し協定がないことを理由に、香港は台湾の要求を拒否。その後、こうした“法の抜け穴を解消するため”との名目で香港政府は逃亡犯条例の改正案を提出したんです」(西谷さん、以下同じ)
一見、正当な理由が背景にあるように思える。しかし、この改正によって中国政府は、政権批判をしている香港在住の人物に対し、罪状を指摘して、中国に移送させることができるようになる。このため、条例改正に反対する人々が「送中条例(=中国送り条例)」と呼んで批判、デモに発展した。
条例改正を撤回しても、反政府デモが終わらない理由
逃亡犯条例の改正案をきっかけに始まった反政府デモ。しかし条例の改正案は8月末に撤回が宣言され、10月23日に正式に撤回している。それでもなお抗議活動が続く理由には「警察の暴力的な対応や、政府がデモに対して『暴動=犯罪行為』という態度を貫いていることが大きい」と西谷さんは話す。
「“自由と民主”は香港人にとって、中国大陸との間に線引きをするための概念でもあります。経済的に“大陸”に飲み込まれつつあることも、こうした抵抗運動が起きる背景になっています」
もともとイギリスの植民地であった香港は、1997年7月1日に中華人民共和国へ返還することで合意した。この時、返還後50年間は「一国二制度」のもと、外交と国防を除いて市民に自治権が与えられることが約束されている。このような背景から香港の基本法では「集会やデモの自由」を明記しており、政府や警察の行き過ぎた実力行使が不満を煽っているようだ。
「反政府デモが収束する見込みは、今のところ見られません。市民のデモへの支持率が落ちたり、政府側が大量の火器や武力を投入するなどすれば、事態は急変するかもしれませんが、今のところ可能性は低いと考えられます。
収束するためには、デモ側がどの程度、譲歩を引き出せるのかがポイントになります。ただ、デモの長期化にともない、政府側が逮捕者の恩赦を一時検討したとの報道もあります」