多重債務者147万人に急増!他人事じゃない「借金問題」の注意点を弁護士が解説

多重債務者が2025年3月末時点で147万人に急増、金融庁が実態解明に向け要因を分析する調査に12月中にも乗り出すと報じられました。このケースに関連して、「多重債務者」とは何か、なぜ多重債務者が急増しているのか、その背景について、アディーレ法律事務所の谷崎翔弁護士に解説していただきました。
多重債務者は「3社以上から借り入れをしている人」
――多重債務者が急増しているとのことですが、そもそも多重債務者の定義は何ですか?
谷崎弁護士:「多重債務者」という用語に明確な定義や法律の根拠はありませんが、銀行が加盟する業界団体である全国銀行協会では、「多数の金融業者からお金を借り、返済が困難になっている人」を「多重債務者」と定義しています。
また、政府が概ね1年に1回開催する多重債務問題に関する懇談会の資料では、1人あたりの借入額と一緒に、「3社以上(及び5社以上)から借り入れをしている人数」を指標として毎年公表しています。そのため、政府としては「3社以上から借り入れをしている人」を多重債務者として捉えていると考えられます。
年収の3分の1を超える借り入れはできない
――多重債務を防ぐために何か対策はされていないのでしょうか?
谷崎弁護士:貸金業法13条の2に「総量規制」というルールがあります。金融機関から年収の3分の1を超える借り入れをすることはできないという内容です。
――総量規制があるのに、多重債務者が増えているのはなぜですか?
谷崎弁護士:総量規制が適用される金融機関は、貸金業法の適用対象である「貸金業者」だけです。そのため銀行や信用金庫のカードローンについては総量規制に関係なく借り入れができてしまいます。また、住宅ローンや自動車ローンといった担保のある貸付も適用対象外です。
最近はインフレや円安の影響で物価がどんどん上昇しており、普通に生活するだけでも今までよりもお金がかかってしまうため、銀行カードローンから借り入れをする人が増えた可能性があります。また、かつてより金融サービスの質が向上したため、貸し付けの際の審査も簡易化、迅速化し、スマホ一つで簡単に借り入れができるようになった影響もあると思います。
貸金業界は信用情報をデータベースで管理していますが、複数の貸金業者にほぼ同時に申し込むことで、情報が反映される前に借りる、いわゆる「すり抜け」が行われていると考えられます。
ヤミ金業者から借り入れをして犯罪に巻き込まれるケースも
――すり抜けが起きると、どんな問題につながりますか?
谷崎弁護士:総量規制のすり抜けが増えると、かつて高金利が横行していた時代に社会問題となった多重債務の問題が再発し、借金に苦しむ方が多発することになります。
また、通常の貸金業者から融資を断られた方が、無許可で営業するヤミ金業者から借り入れをして犯罪に巻き込まれるケースも増えてくると思います。現在はヤミ金も高度化、複雑化しており、それと気づかずに手を出してしまう方も増えています。
――どんな対策が有効でしょうか?
谷崎弁護士:まず何よりも自分の収入と支出を把握することです。収入については給与明細があるので把握している方が多いのですが、支出については意外と把握していない方がおられます。家賃やスマホ通信料など定額の支出はわかりやすいですが、食費や娯楽費といった毎月変わる支出についても、家計簿アプリを活用するなどして、きちんと把握しておくようにしましょう。
不要なサブスクはこまめに解約する、ついつい利用してしまうネットショッピングについては毎月の利用限度額を自分で設定しておく、といった手段も有効です。
推し活や投資詐欺に注意
――最近の借金の傾向に特徴はありますか?
谷崎弁護士:昔のようにギャンブルやブランド品の爆買いで借金が膨らむケースは減ってきたように思います。そのかわり、趣味や嗜好が多様化した影響なのか、若い方を中心に推し活や動画サイトのスパチャといった個人的趣味の借金、またSNSを利用した投資詐欺や国際ロマンス詐欺に騙されて借金を形成する方が増えています。
――私たちは何に気をつけるべきでしょうか?
谷崎弁護士:日々の生活の中でクレジットカードを使ったり、お金を借りること自体は悪いことではありません。ただ、一度立ち止まって将来の状況を考えてみることが必要です。この買い物は本当に自分にとって価値があるのか、後悔しないか、返済が始まった後も生活費は確保できるかをしっかり検討しましょう。
またSNSで紹介される「簡単に儲かる投資」は安全なのでしょうか。詐欺の可能性はありませんか。特に若い方には、ネットで日々目にする情報を鵜吞みにしてすぐに信用するのではなく、納得がいくまで自分の頭でしっかりと考えて、お金の使い道を決めてほしいと思います。
今はネット環境の発達で何でもワンクリックで注文、解決できますが、その指先の動き一つで自分の将来が大きく変わってしまう可能性があることを意識してほしいです。
谷崎翔(アディーレ法律事務所新宿支店)
弁護士。第一東京弁護士会所属。債務整理部門の部長として現場を率い、累計5000件超の債務相談(※)に向き合ってきた経験豊富な弁護士。依頼者の不安を整理し、どう動けばよいかを一緒に考える丁寧な姿勢を大切にしている。激辛料理好きという意外な一面もあり、話しやすい雰囲気が相談者からも好評。現在は新宿支店長として、多様な悩みに寄り添っている。
※債務整理、過払金請求、ヤミ金融事件の相談を含む。
[協力]
アディーレ法律事務所