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世界を変える若手社会起業家は何を考えているのか?「Youth Co:Lab ソーシャル・イノベーション・チャレンジ 日本大会2025 歴代受賞者グランプリ‐Demo Day」

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世界を変える若手社会起業家は何を考えているのか?「Youth Co:Lab ソーシャル・イノベーション・チャレンジ 日本大会2025 歴代受賞者グランプリ‐Demo Day」レポート

社会課題の複雑さが増し、解決の難易度が高まるなか、現場に飛び込み、仕組みから変革を試みる若手社会起業家たちがいる。アフリカ農村の金融包摂、子どもの非認知能力教育、日本と海外の学校をつなぐ越境学習プラットフォームなど、その活動は国境もテーマも多様だ。

国連開発計画(UNDP)とシティ・ファウンデーションが共催する「Youth Co:Lab(ユース・コーラボ)」は、若者による最先端のソーシャルイノベーションと社会起業を支援する地域横断型プログラム。その一環として2025年11月20日には、SDGs達成に挑む若手社会起業家を対象にしたコンテストの歴代受賞者のみを対象とした特別企画「ソーシャルイノベーションチャレンジ日本大会2025 Demo Day」が開催された。

本記事では、Demo Dayで語られた世界を変えようとする若き実践者たちの言葉を、ビジネスパーソンの学びとして再編集して伝える。

自身の“原体験”から始まる事業

多くの社会起業家に共通していたのは、「課題の当事者と出会った瞬間の衝撃」が、事業を生む原点になっているということだ。

株式会社HAKKI GROUP(ハッキグループ)小林嶺司氏
株式会社HAKKI GROUP・小林嶺司氏

例えば、アフリカでタクシードライバー向けファイナンスを展開する株式会社HAKKI GROUP(ハッキグループ)の小林嶺司氏は、学生時代にアフリカ縦断を経験。日本では当たり前に存在する“信用にもとづく分割払いの仕組み”がないために、努力しても資産を築けない現実を目の当たりにした。この体験が「誠実な努力が報われる仕組みが必要だ」という信念となり、独自スコアリングを使った融資モデルの開発につながっている。

株式会社YOMYの安田莉子氏
株式会社YOMY・安田莉子氏

また、オンライン教育サービス「YOMY!(ヨミー)」を提供する株式会社YOMYの安田莉子氏は、高校時代のオーストラリア留学で、子どもたちが自ら意見を語り、ディスカッションする光景に衝撃を受けたという。日本の子どもたちは「自分の考えを言葉にする力」が先進国で最低レベルだという調査を踏まえ、絵本と対話を軸に“伝える力”を育むレッスンを開始した。

原体験なくして、社会課題を解く推進力は生まれない——それが、複数の登壇者の姿から強く伝わってきた。

「小さな村」から世界を変える

株式会社Dots for(ドッツフォー)外村璃絵氏
株式会社Dots for・外村璃絵氏

アフリカの農村にデジタルインフラを届ける 株式会社Dots for(ドッツフォー)は、電波も電気も届かない村に自立型の“ドッツボックス”を設置。Wi-Fi機器とエッジサーバーを搭載し、教育や仕事、金融サービスを提供できる仕組みを作り出している。

特筆すべきは、携帯の充電サービスやバイクのレンタル事業、プリンターサービスなども行っており、物理的なハブとしても村にインフラを提供するという、アナログとデジタルの融合だ。

ビジネスとして成立させる力——スケール、利益、信頼

社会課題の解決だけでは事業は続かない。登壇者たちは、「ビジネスとして、どう収益化し、拡大し、持続可能なモデルを作るか」を同時に追求している。

(1) データを使った“信用の再設計”

HAKKI GROUPは、モバイルマネーの履歴やライドシェアアプリの行動データを組み合わせ、独自の信用スコアを作成。これにより、これまでローンが通らなかった人々が車を保有でき、所得向上に直結するビジネスモデルを成立させている。

返済率98%、月平均成長率19.5%という実績は、「社会インパクト=収益性」という構造が成立している証拠だ。

(2)プラットフォーム化による事業拡張

Dots forは教育、充電、印刷、バイクレンタルなど、村の生活に必要な複数サービスをハブ化。その上にパートナー企業のサービスを載せることで、事業の成長力を飛躍的に高めている。

三井物産グループとのフランチャイズ展開やブラザー工業との資本業務提携など、日系大手との協業が進む背景には「現地でのニーズが明確で、企業側の強みも発揮できる」というロジックの共有があった。

(3)教育×サブスクで安定収益をつくる

YOMY!は30分の絵本対話レッスンをサブスク型で提供。教育の質を保つため、大学生クルーを徹底トレーニングし、レッスンごとに“できたレポート”を家庭に届ける仕組みを整えている。オンライン教育市場の成長を背景に、サービス利用者は7カ国に拡大。福利厚生としての導入も進んでいるという。

若手社会起業家に共通する“ビジネス視点”

Demo Dayのピッチを通して感じたのは、彼らが単なる理想主義者ではなく、構造・資金・事業運営を現実的に捉えたビジネス人材であるということだ。特に印象的だったのは、以下の3点である。

1.「課題×ビジネス」の両立を緻密に分析している

市場規模、収益性、KPI、スケール戦略——いずれも極めて実務的だ。ハッキグループは資金調達構造を日本と現地で組み合わせ、貸し倒れリスクを抑制しながら事業拡大を進めている。

2. パートナー企業との共創が巧み

ナショナルクライアントクラスの企業に対し、“自社の技術が現地でどう役立つか”を丁寧に説明するなど、コラボレーション設計が緻密だ。

3. 困難や失敗を当然のプロセスとして受け入れている

「毎日トラブルが起こる」「貯金が減って死ぬかと思った」という言葉が象徴的だが、彼らはその困難さえも事業成長の一部として捉える。この“耐性”こそ、社会起業家を社会起業家たらしめる重要な資質だといえるだろう。

若手ビジネスパーソンへの示唆——“問題の当事者になる勇気”

今回のDemo Day に登壇した若い起業家に共通していたのは、誰かが解くべきだと思った課題ではなく、自分が出会ってしまった課題から逃げなかったという姿だ。

株式会社Darajapan(ダラジャパン)の角田弥央氏
株式会社Darajapan・角田弥央氏

新興国でAI×ITの人材育成や就労支援を行う株式会社Darajapan(ダラジャパン)の角田弥央氏は、「毎日問題が起きるが、現地の人の“地域を良くしたい”という思いが、困難を越える原動力になっている」と述べていたが、そこには海外事業のリアリティが詰まっていた。

ビジネスパーソンにとっての示唆は大きいのではないだろうか。

・自分の仕事の延長線に、どんな社会課題があるのか
・その課題は、どんな構造で生まれているのか
・自分のスキルは、どの部分の解決に使えるのか

こうした問いは、キャリアの意味を拡張してくれる。

彼らが証明したのは、「社会課題の解決は、特別な誰かの仕事ではなく、プロフェッショナルとしての新しいキャリアパスである」ということだ。

未来は若い挑戦から生まれる

最終審査の講評では、外務省・文部科学省の担当者から「日本の価値観を海外と共創する時代」「社会課題に向き合う若い世代を照らす存在であってほしい」といった声が寄せられた。

社会課題の解決は時間がかかる。再現性も低い。前例もない。それでも挑む若者に、多くの登壇者や審査員が惜しみない拍手を送った。

世界を変える挑戦は、いつも誰かひとりの決断から始まる。そして、その挑戦に仲間や企業や行政が巻き込まれることで、少しずつ現実が変わる。このDemo Dayで語られた若い社会起業家たちの言葉は、それを強く実感させてくれるものだった。

ピッチ登壇・受賞チーム

(1)新興国AI×IT人材育成・就労支援 IMANI Hacking
(今回受賞:八千代 Future Impact 賞)
株式会社Darajapan 角田 弥央(つのだ・みお)

(2)植物におけるストレス応答物質「グルタチオン」で食料安全保障を実現
(今回受賞:チャレンジ賞)
株式会社WAKU  姫野 亮佑(ひめの・りょうすけ)

株式会社WAKU ・姫野亮佑氏
株式会社WAKU ・姫野亮佑氏(左)

(3)「給水」から始まる未来づくり
(今回受賞:AWS女性社会起業家賞)
一般社団法人 Social Innovation Japan Mariko McTier(まりこ・まくてぃあ)

一般社団法人 Social Innovation Japan・Mariko McTier氏
一般社団法人 Social Innovation Japan・Mariko McTier氏

(4)世界中の学校とオンラインでつなぎ、誰もが教育を受けられ、戦争のない平和で多様な世界の実現
(今回受賞:最優秀賞、観客賞、CVC賞)
株式会社 With The World 五十嵐 駿太(いがらし・しゅんた)

株式会社 With The World・五十嵐駿太氏
株式会社 With The World・五十嵐駿太氏(左)

(5)デジタルデバイドのアフリカ農村部向けデジタルサービスハブ
(今回受賞:UNHCR賞、八千代 Future Impact 賞)
株式会社Dots for Oba Carlos、外村 璃絵(とのむら・りえ)

(6)地球上の信用格差を解消する挑戦
(今回受賞:優秀賞、八千代 Future Impact 賞)
株式会社HAKKI GROUP 小林 嶺司(こばやし・れいじ)

(7)次世代型EdTech:絵本と対話で「伝える力」を育むオンラインスクールYOMY!
(今回受賞:CVC賞)
株式会社YOMY 安田 莉子(やすだ・りこ)

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