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他人と比べる意味はない!「命の授業」を続ける作家・今西乃子さんが語る幸せの本質

他人と比べる意味はない!「命の授業」を続ける作家・今西乃子さんが語る幸せの本質

児童文学作家として「命の授業」を全国の学校で約350回続けてきた今西乃子さん。著書『保護犬と、保護猫と。 必然の出会いで結ばれた物語』(WAVE出版)では、保護犬や保護猫と人との出会いを通して、「誰かを幸せにすることは自分を幸せにすること」というメッセージを発信しています。動物愛護にとどまらず、人の生き方や社会の在り方にまで及ぶその言葉には、社会人としても考えさせられるものがありました。

誰かを幸せにすると自分も幸せになる

『保護犬と、保護猫と。 必然の出会いで結ばれた物語』
『保護犬と、保護猫と。 必然の出会いで結ばれた物語』(WAVE出版)

――著書『保護犬と、保護猫と。 必然の出会いで結ばれた物語』で伝えたかったテーマは何でしょうか?

今西:ほとんどの私の本は犬のことばかり書いてますが、犬の話だけではないということに重点を置いています。人の成長や生き方、犬を介在させることで人生が変わったり、物の見方が変わったりすることを記しているのです。

この本では、保護犬や保護猫を通して、人としての幸せを見つけている人たちを描きました。誰かを幸せにすることで自分が一番幸せになれる。それは犬でなくてもいい。子どもでも友達でもおばあちゃんでも、社会貢献でもいい。そういうことを感じ取ってほしいと思っています。

――「命の授業」を全国の学校で約350回も行ってこられたとのことですが、これまで続けられた原動力はどこにあるのでしょうか?

今西:道徳の授業の中に「生命尊重」「人権」という指導要領があります。命の授業は動物愛護の啓発ではなく、生命尊重から考える人権教育でもあるんです。

授業では、一匹の犬「未来(みらい)」(※今西さんが飼っていた保護犬)の生き方を通して、子どもたちに“自分を好きになるヒント”を届けています。誰かを幸せにできる自分、感謝される自分、そういう自分を好きになれたら人は強く優しくなれます。それが私の授業の根幹ですし、この授業が学校現場で必要とされ、体力のある限りは続けたいと思っています。

――子どもたちの反応で印象に残っている言葉はありますか?

今西:多くの子どもが「誰かを幸せにすると自分も幸せになる」と書いてくれます。また、「命は息をしていることだけではなく、幸せになることだ」と気づいた子もいます。これは大人にも同じことが言えますよね。

社会全体で「命の重さ」を考えることが必要

児童文学作家・今西乃子さん

――動物を取り巻く社会の変化については、どう感じられますか?

今西:保護犬だった未来を家族に迎えた20年前、日本では年間36万頭の犬猫が殺処分されていましたが、いまは1万頭を切りました。これは、保護ボランティアの方々や、犬猫を家族の一員として迎え、大切に終生飼養する人が増えた結果です。

昨今では「殺処分ゼロ」が当たり前のようになってきていますが、「殺処分ゼロ」そのものを目的にするのではなく、それは結果であるべき。捨てられる命をゼロにする――そこを目指さなければ意味がありません

「殺処分ゼロ」は、間違いなく良いことですが、「殺処分ゼロ」を全うするために、動物愛護センターでは何年も収容され続ける犬猫がいます。そうなると、動物福祉的にどうなのか。命とは息をしていればいいというものではなく、「殺処分ゼロ」と、動物たちの「幸せ」は、必ずセットであるべきです。

また、「殺処分ゼロ」の背景で、収容犬猫を保護して預かる保護ボランティアさんの負担は非常に大きい。ボランティアさんに負担が集中する現状を変えるには、社会全体で「命の重さ」を考えることが必要です。

――動物医療や福祉の面で感じる課題はありますか?

今西:治療が“飼い主のエゴ”になっていないかを、考えることはとても大切だと思っています。動物のQOL(生活の質)をどう守るか。安楽死も含め、獣医師が飼い主さんの心のケアをしてくれる体制がもっと広がってほしいと思います。

飼っている動物が苦しむ姿を見るのはつらい。でも、その子に「この家の子でよかった」と思ってもらえるような生涯を与えることこそ、命を預かる責任だと思うんです。

@bizspa_official

児童文学作家で全国の小・中学校などで命の授業を行っている今西さんに命の大切さについて聞いてみた。#犬 #殺処分ゼロ #犬のいる生活

♬ HOLY FOREVER (Instrumental) – Glorify & CHILLØUT

他人のSNS投稿で落ち込むことに意味はない

今西乃子さんと保護犬のきらら
今西乃子さんと保護犬のきらら

――教育現場や親世代に伝えたいことはありますか?

今西:「子どもだからわからない」ではなく、子どもも一人の人間です。私は授業で殺処分の映像も見せます。あるお母さんから「子どもが泣いた」とクレームが来たことがありますが、悲しいことを見て悲しいと感じるのは人として自然なこと。大事なのは、その涙の意味を大人と一緒に考えることです。怒りや悔しさ、感動を経験し、その理由を考えることが教育。子どもたちには、そんな涙と共に成長していってほしい。

今は怒られない子どもが増えましたが、叱ることも愛情。今日叱るのは、その子の明日のためなんです。それは上司と部下の関係にも通じると思いますよ。

――若い世代にメッセージをお願いします。

今西:SNSでの「いいね」の数が自分の価値のように思えてしまう時代ですが、誰かのキラキラした投稿と比べて落ち込んだりすることには意味がないと気づいてほしいですね。みんな同じように年を取ります。人は自分が歩いてきた道で人生を評価するしかなく、他人との比較に答えはありません

年を取れば、元気な体も、容姿もいつかなくなります。だから、自分を否定して苦しむより、自分を肯定できる心を探してほしいですね。若いときは、なかなか気づけないかもしれませんが、自分の心のあり方で、幸せを見つけることの大切さを伝えたいです。

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