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成城石井の冬がひと味違うワケとは?他社が敵わない「商品力」2つの要

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成城石井の冬がひと味違うワケとは?他社が敵わない「商品力」2つの要

実りと美食の秋を経て、ホリデーシーズンの12月に新春の1月と、グルメ業界は繁忙期を迎える。そこで今回フォーカスしたのは成城石井。同社は過去2度にわたり、この時季に「立冬フェア」を企画するほか、春のスイーツに夏のカレーなど、さまざまなフェアを企画している。

世の中では物価高や競争が激化するなかで、成城石井は“季節を感じる購買体験”を、どのように設計しているのか。小売の現場からブランド体験をつくり出す、マーケティング思考を深掘りしよう。

調達力×自社キッチンで他社にない高品質な各国料理を提案

インタビューに応じてくれたのは、成城石井で商品部の部長を務める星野鉄兵さん。2025年は11月7日(金)から同月30日(日)まで開催されている「立冬フェア」のメディア向け試食会で話を聞いた。

株式会社成城石井 商品本部 商品部 部長 星野鉄兵さん
株式会社成城石井 商品本部 商品部 部長 星野鉄兵さん

「立冬フェア」のスタートは、2022年から。成城石井では、「豊かで明るい気分で冬へ向かう楽しみをお届けしたい」との想いから、「立冬=Lit(照らす)To(冬)」と読み解いてこの企画を開催している。具体的に、どんな商品群にフォーカスしているのだろうか?

「大きなカテゴリーとして、ワインがあります。毎年11月の第3木曜は『ボージョレ・ヌーヴォ』の解禁日ですが、『立冬フェア』は例年11月7日ごろの“立冬”に合わせて展開しており、また当社のほうでも『立冬ヌーヴォ』と題した新酒を併せて販売することで、いち早く季節の美食を楽しんでいただけたらと思っております」

今期の「立冬ヌーヴォ」代表作が「ジョニーQ ヌーヴォ 2025」1,859円/750ml。力強い風味が特徴の豪州産シラーズを中心に、果実風味が豊かなグルナッシュ、フレッシュ感がありつつもフルーティなピノ・ノワールをブレンド
今期の「立冬ヌーヴォ」である「ジョニーQ ヌーヴォ 2025」1,859円/750ml。力強い風味が特徴のシラーズを中心に、果実風味が豊かなグルナッシュ、フレッシュ感がありつつもフルーティなピノ・ノワールと豪州産の3種のぶどうをブレンド

加えて、2025年は「~チーズとワインでおいしい冬支度~」をサブタイトルに掲げ、マリアージュを提案している。アイテムは、新商品17品を含む最大32品をラインナップ。ソムリエの資格を有する酒担当バイヤーや、チーズプロフェッショナルの資格を有する乳製品担当バイヤーらとともに試食・試飲を行い、最もおいしい組み合わせを選定した。

「昨今の物価高騰や為替の影響などにより、特に輸入チーズの価格は高騰しています。しかしそのような情勢下でもチーズを身近に、手軽にお楽しみいただきたいという想いのもと、当社では独自の貿易機能やセントラルキッチンでの製造機能を活用し、チーズ関連商品を極力手に取りやすい価格で用意できました。チーズとワインが織りなす奥深く濃厚な味わいで、心温まるひとときをお過ごしいただけたら」

「成城石井自家製 3種チーズの国産豚肉団子」755円。ローズマリーやナツメグを効かせた肉団子の上から、トマトソース、レッドチェダーを使用したチーズソース、さらに3種類のチーズをトッピング
「成城石井自家製 3種チーズの国産豚肉団子」755円。ローズマリーやナツメグを効かせた肉団子の上から、トマトソース、レッドチェダーを使用したチーズソース、さらに3種類のチーズをトッピング

セントラルキッチンといっても、その製造能力は別格だ。特に、同社が2022年8月より本格稼働させた「大和第3セントラルキッチン」をきっかけに、近隣2カ所のセントラルキッチンをリニューアル。2カ所のうち1カ所に、セントラルキッチンでは初となるチーズの加工・製造を担う機能を設けた。

これにより、チーズをホールやブロックのまま輸入し、アソートセットや加工チーズ、オードブルなどへの加工が可能に。また自社でカットすることで、よりリーズナブルな価格での提供も可能となった

「成城石井自家製 3種チーズと牛肉ラグーソースのポテトグラタン」647円。3時間以上煮込んだ牛ホホ肉と、野菜のうまみが詰まったラグーソースが3種類のチーズとマッチ
「成城石井自家製 3種チーズと牛肉ラグーソースのポテトグラタン」647円。3時間以上煮込んだ牛ホホ肉と、野菜のうまみが詰まったラグーソースが3種類のチーズとマッチ

季節がテーマのフェアを開催する狙い

ほかにも2025年の夏には、同社で初となるカレーフェア「ようこそ!カレー沼へ」が実施されたが、季節の節目をテーマにしたフェアを打ち出す狙いとは?

「ひとつはお客様に、旬の味覚や季節メニューを楽しんでいただきたいという想いですね。今年ですと、万博の開催に合わせて世界の麺料理にフォーカスした『成城石井 めん博 2025』も実施いたしました。

『成城石井めん博 2025』の商品
『成城石井 めん博 2025』の商品

戦略上としては、他社との差別化が狙いです。バイヤーの調達力と自社のセントラルキッチンの製造機能を掛け合わせることで、各国の本格的な料理を高品質かつ、お求めになりやすい価格でご提供することができます。そのうえでトレンドにアンテナを張り、お客様に喜んでいただける企画をこれからも開催していきたいですね」

ワンランク上の「立冬ヌーヴォ」が「ジョニーQ ヌーヴォ プレミアム 2025」2,189円/750ml。豪州を代表する銘醸地マクラーレン・ヴェイルのシラーズを使用した、エレガントで力強い味わいだ
ワンランク上の「立冬ヌーヴォ」が「ジョニーQ ヌーヴォ プレミアム 2025」2,189円/750ml。豪州を代表する銘醸地マクラーレン・ヴェイルのシラーズを使用した、エレガントで力強い味わいだ

成城石井流、社内の巻き込み方とは?

こうしたフェアは、現場となる各店舗のスタッフにまで熱意を伝えて巻き込むことが重要である。では、一方的な“売場イベント”ではなく“文化体験”にまで高めるために、社内ではどんな工夫をしているのだろうか?

「フェア開催前には社内で社員に向けてフェアに関する説明を行ったり、フェア対象商品の試食会を開催したりなど、全従業員が一丸となった状態でフェアを迎えられるようにしています。今後は、各店の代表者が集う会などでフェア開催前に試食してもらい、より直接おいしさをお伝えできるようにしたいですね」

株式会社成城石井 商品本部 商品部 部長 星野鉄兵さん

消費者向け企画は、今回の「立冬フェア」でも公式アプリで実施。では、店舗やデジタルマーケティングの施策としてはどのように連動させているのか?

「店舗では販促物を用意するほか、各商品の専用ペアリングを記載した商品POPを掲示します。また、公式アプリでは『立冬フェア』にあわせて『あなたにぴったりのチーズメニューは?チーズ相性占い』を立ち上げました。

アプリ内の占いでは質問事項に答えると、好相性なチーズ商品やその商品に合うワインを提案してくれる
アプリ内の占いでは質問事項に答えると、好相性なチーズ商品やその商品に合うワインを提案してくれる

発信の例には公式アプリのほか、SNSもありますね。たとえばInstagramは20万人以上の方々にフォローいただいており、こちらに情報発信することで、店舗やオンラインショップへの来店につなげていきたいと考えています」

次はクリスマス。各国料理にフォーカスしたフェアにも注目だ

成城石井は年間通してさまざまなフェアを開催しているが、それぞれどんな価値を届けたいと考えているのだろうか?

「商品のおいしさはもちろんのこと、多彩なペアリングを通して、新たな食の体験価値を楽しんでいただけたらと思っています。今回であればチーズとワインがメインとなりますが、当社では和風の味付けに仕立てたチーズや、甘いスイーツ系チーズもご用意いたしました。そこにワインを合わせていただくことで、新たなおいしさやペアリングの妙を見つけていただけたらうれしいですね」

左から「成城石井 クリームチーズたまり醤油漬」539円(左上が商品パッケージ)、「成城石井 メープルシロップとピーカンナッツのクリームチーズ」539円(右上が商品パッケージ)
左から「成城石井 クリームチーズたまり醤油漬」539円(左上が商品パッケージ)、「成城石井 メープルシロップとピーカンナッツのクリームチーズ」539円(右上が商品パッケージ)

加えて星野さんは、季節以外のフェアにも注目だという。たとえば、各国の料理にフォーカスしたフェアでは、日本で展開されているご当地レストランのメニューにも負けないおいしさがそろっている。

「過去には各国大使館の協力を得たシンガポールフェアや、タイフェアなど。そして今年は春に韓国、秋に台湾のフェアを開催させていただきましたが、こちらも好評で、特に人気の商品はレギュラー化したいと考えておりますし、次回行う際にはより進化させた形で実施したいです」

台湾フェアの商品
台湾フェアの商品

では、こうした季節や文化を切り口にしたフェアにより、ブランド発信をどう進化させたいと考えているのか?

「今年の夏はカレーフェアのほか、ワインに氷を入れて楽しむ『アイスサマーヌーヴォ』や自家製冷やし麺、冷製デザートなどを目玉に提案させていただきました。実はこれらは初の取り組みで、とはいえ好評を得ることができたんですね。

『アイスサマーヌーヴォ』の商品
『アイスサマーヌーヴォ』の商品

振り返れば、年々暑い期間が長くなっているともいわれておりますので、当社としてもさらに夏場の企画には注力したいと考えています。それ以外の季節でも、新しい商品設計やメニュー展開を企画したいですし、今回のチーズやワインのように成城石井でしかできないものに取り組みたいです」

株式会社成城石井 商品本部 商品部 部長 星野鉄兵さん

なお、2025年の「立冬フェア」は11月30日までだが、その次はクリスマスのパーティー向け商品を充実させるとか。そして1月からは、バレンタインやホワイトデーに向けたチョコレート商品を大きく展開予定。引き続き、成城石井の取り組みには注目だ。

※価格はすべて税込表記となります。掲載時から変更される場合もあります

[取材・文・写真/中山秀明]

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