“利他と挑戦”100億円企業「フジ物産」社長に訊く伝統に捉われない変幻自在な会社経営のポリシー

日本には約380万の企業が存在するといわれており、そのうち売上高100億円を超える企業はわずか約1%にとどまるといいます。そんな稀有な企業のひとつが、静岡県静岡市に本社を構えるフジ物産株式会社(以下、フジ物産)です。燃料や餌料の販売を手がける会社としてスタートしたフジ物産は、時代とともに事業の幅を広げ、総合商社的な性格をもつユニークな企業へと成長。2023年には売上高153億円を計上しました。今回は、そんなフジ物産のブレーン・山﨑伊佐子社長にインタビュー。現代における会社づくりや経営ポリシーについて尋ねてみました。
伝統と革新を両立する“色いろやっているフジ物産”

1957年、静岡県清水市(現:静岡市清水区)で創業したフジ物産は、石油製品販売、漁業用飼料、水産食品加工を核に、地域産業を支えてきた老舗企業。堅実な経営姿勢を貫き、40年以上にわたって連続黒字を達成。2023年度には過去最高となる売上高153億円を記録した、100億円企業の一つです。

そんなフジ物産は積極的な多角化戦略が特徴の一つ。先述した創業以来から続く事業のほかに、現在では鰻の養殖・加工事業をはじめ、再生可能エネルギー、アスリートのセカンドキャリア支援、飲食店経営、さらには地域貢献の取り組みに至るまで、伝統企業としての信頼を守りつつも、革新を求めるベンチャースピリットを両立しています。

この多角化戦略をリードしているのが、代表取締役社長の山崎伊佐子氏です。専業主婦から同社に入社したのち、先代の山﨑謹三氏から会社を引き継ぎ、2007年に社長へ就任。「利他(りた)」の精神を経営哲学の中心に据え、「地域社会を明るく元気に」という企業パーパスを掲げて、地域の持続的な発展とSDGsへの貢献を推進するなど、ボーダーレスな考えのもと事業を展開しています。
そんな山﨑社長に、地域に根ざしながらも次々と新しい挑戦を生み出す経営哲学と、フジ物産が目指す未来像について伺いました。
「利他×変幻自在」老舗企業が挑む新時代の経営のかたち

──フジ物産で主軸となっている海上事業について、具体的な事業内容について教えてください。
山﨑社長:フジ物産には「海上部」と呼ばれる部署があり、マグロ餌料や船舶燃油類、船舶食料品、外地補給業務、さらには遠洋マグロ漁船を対象にしたマンニングなども行っています。マグロ餌料については、先代(山﨑謹三 氏)の父が遠洋マグロ漁船の乗組員から「なかなかいい餌がない」ということをきっかけに始まったもので、創業初期からある長い事業です。
──フジ物産のマグロ餌料は業界から高い評価を得ていると伺いました。品質の高い餌を供給するために、どのような工夫をされているのでしょうか?

山﨑社長:ありがとうございます。マグロがよく釣れるためには、餌が針から外れないことが重要で、そのためには何よりも鮮度が大切になります。餌は主に海外から冷凍されたものを使用していますが、流通の過程で一度でも解凍されてしまうと鮮度が落ちてしまいます。そこで、当社ではコールドチェーンの徹底管理を行い、必要に応じて海外の取引先にも足を運び、品質チェックや指導を直接行うこともあります。
さらに近年では、ミルクフィッシュ(サバヒー)の国内養殖事業にも取り組んでいます。マグロ餌料として主流のイカやサバに比べると、ややグレードは下がりますが、国内で養殖することで鮮度の高い“生餌”として使用できる点が大きなメリットです。加えて、従来の天然由来の餌はどうしても漁獲量に左右される側面がありますが、ミルクフィッシュを活用することで、その不安定さを補うことができると考えています。
──多角的な事業を展開される中で、何をもって「新しい事業をやる/やらない」を判断されていますか?
山﨑社長:これは明確な判断基準があって、本当にやりたいと思っている熱意を持っているかどうかです。いくらおもしろい新規事業のアイデアがあったとしても、半端な関わり方で成果を得るのはほぼ不可能です。熱い思いをベースにしたうえで、いかに実現に向けて課題をクリアしていくかが大切だと考えています。社員の皆さんが「熱い思いでいい顔で仕事をしている」のを見ると私自身もワクワクしますね。
──フジ物産では地域貢献も積極的に行われていますが、実施したことで得られた成果はありますか?
山﨑社長:フジ物産という会社を知ってもらえるきっかけを作れたことです。
BtoB事業が中心で、かつ地方の上場していない中小企業であるため、地元の方でも「フジ物産が何をしている会社なのか」「そもそも名前すら知らない」という人がほとんどでした。しかし、地域に根ざした活動を続けることで徐々に認知度が広がり、現在では採用面接の際に「地域貢献の活動に魅力を感じた」という志望動機が挙がるなど、リクルート面でも恩恵を得られていると思います。

また社員のモチベーションにもつながっていると感じています。ー年に2回の会社への要望等を社員からのレポートを集める機会があるのですが、「地域貢献することができて(してくれて)とてもうれしい」という感想が書かれていることが多々あります。
いまから30年ほど前、私自身が経理事務として入社した際、得意分野でもなかったこともあったからか、役に立っていることが実感できずにやりがいに繋がらなかったんです。やはり、人や世の中の役に立ちたいというのは誰もが持っている本質で、それが満たされると次へと進むモチベーションになるのだと思います。いまフジ物産が掲げる“利他と挑戦”という企業理念は、まさにそれを表現した言葉かもしれません。
──社員の方々が気持ちよく働けるようにするために、意識されていることや実際に行っている取り組みがあれば教えてください。
山﨑社長:社長就任時から5、6年は社員全員にヒアリング(今でいうONE ON ONE)をして、一人ひとりの「思い」を聞くことを繰り返してきました。応えられることは即対応し、時間のかかること、できないことはじっくり説明をして理解をしてもらいました。いまは各部署長にこの「ヒアリング」をしてもらっています。
また10年ほど前までやっていた「車座会議」を甥の二人とともに復活させることにしました。これは若手数人を社長自宅に招いて、仕事の話を中心に様々語り合う時間です。参加した社員がより元気に仕事に向かうことができるような時間にしたいと思っています。
──最後に、100年企業を目指すにあたって、今後大切だと考えていることは何でしょうか?

山﨑社長:一つの形や枠にこだわりすぎて一辺倒になってしまうと、とてもじゃないですがこれからの時代は生き残っていけないと考えています。フジ物産でいうと、海上事業のほかにもアスリートのセカンドキャリアを支援する事業など、さまざまな取り組みをボーダーレスに行っています。そのような体制であることで、外部環境によって売上が変動したとしても各々を補完し合うこともできますし、組織の強靭化にもつながります。大切なのは“変幻自在である”ことです。
フジ物産株式会社
静岡県静岡市清水区静岡県静岡市清水区大坪2丁目5-32代表取締役社長:山﨑伊佐子
設立:昭和32年4月
資本金:5,000万円
従業員数:144名
目的:石油製品の販売、石油化成品等の販売、漁業用餌料の販売、鰻の養殖・加工、冷凍食品及び水産食品の販売並びに冷蔵倉庫、ガソリンスタンドの経営、太陽光発電事業及びシステム販売
HP:https://fuji-bussan.com/
船井総合研究所が推進する「100億企業化プロジェクト」
「100億企業化」は、東京一極集中や生産性停滞、事業承継問題といった現代社会の構造的課題に対して、中小企業庁や経済産業省が一体となって後押しする国策の一つ。
東京と大阪に拠点を持つ経営コンサルティング会社・船井総合研究所が推進する「100億企業化プロジェクト」は、2020年に始動したプロジェクト。
中小企業の年間売上高を100億円規模へと成長させることを目的に、経営戦略の策定から実行支援までを船井総合研究所が一貫してサポートを行う取り組みで、これまでに300社を超える企業が売上100億円を達成。また参加した企業の85%以上が売上を伸ばすなど、高い成果に結びついています。
「100億企業化プロジェクト」についての詳細は、船井総合研究所公式ページを参照してください。
写真・文:土田洋祐
取材協力:フジ物産株式会社、船井総合研究所