世界が注目する“人間工学デザイン”――ビジネス環境にも重要なオランダ発最新プロダクト思想とは?

「良いプロダクトとは、美しいだけでなく“人にやさしい”ものである」。そう語るのは、オランダ発のベビーカーブランド「バガブー(Bugaboo)」のデザインチームです。同社は、機能性と人間工学(エルゴノミクス)を融合させたデザインで、多くのユーザーに支持されています。
2025年6月に東京で開催された新作発表イベントでは、バガブーのヘッドデザイナーであるアーノルト・ダイクストラーヘリンガ氏と、デルフト工科大学で博士号を取得した人間工学の専門家ブレヒト・ダームス博士が登壇。2人のプレゼンテーションからは、これからのプロダクト開発に必要な視点が多く語られました。
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人と道具の“間”を考える人間工学

「人間工学とは、人とモノの間の相互作用をより良くするための学問です」と語るのは、27年間にわたりこの分野を研究してきたダームス博士。特に赤ちゃん向け製品の設計では、本人が不快や不便を伝えられないからこそ、大人と赤ちゃん、そして道具の“三者関係”を意識した設計が重要になるといいます。
たとえば「歩行器」は便利に見える道具の一例ですが、実は赤ちゃんの自然な発達を妨げるおそれがあります。誤った姿勢での使用は筋肉や背骨の形成に悪影響を及ぼすことがあるため、いくつかの国ではすでに使用が禁止されているそうです。
デスクワークが長い大人こそ“姿勢”に注意を
こうした話は赤ちゃんに限らず、大人のビジネスパーソンにとっても決して他人事ではありません。特に、デスクワーク中心の働き方をしている方にとっては、長時間同じ姿勢で過ごすことによる背骨への負担が懸念されます。
「立っているとき、背骨は自然なS字カーブを描き、歩くときの振動を吸収する役割を果たします。ところが、椅子に長時間座ると筋肉や背骨が引っ張られ、正しい姿勢を維持しづらくなってしまうのです」とダームス博士は警鐘を鳴らします。
現代の子どもたちに背骨のゆがみが増えているという研究もあり、長時間の座位姿勢がもたらす身体への影響は、大人も含めた現代人全体に共通する課題だといえるでしょう。
「デザイン」は企業のアイデンティティ

アーノルト氏は、プロダクトデザインにおいて「何を売るか」よりも「なぜ作るのか」「どんな未来を生むか」を大切にしていると語ります。
「デザインは単なる形づくりではなく、ブランドのアイデンティティそのものです。アップルやダイソンの製品が一目でそれとわかるように、デザインは企業文化を映す言語でもあるのです」
バガブーでは、デザイナー、エンジニア、マーケターが同じ空間で働き、常に“使う人”の視点に立って商品づくりを行っているそうです。3Dプリンターを使ったプロトタイプの開発や、世界各国で行うユーザー調査など、徹底した実証と対話がプロダクトの品質を支えています。
サステナブルな製品こそ、未来への責任

バガブーが力を入れているもうひとつの柱が、サステナビリティです。新作「Butterfly 2(バタフライ2)」では、従来モデルと比べて37%ものCO2削減を実現。リサイクル素材やバイオベースのプラスチックを使い、製品寿命を10年に設定した設計思想は、環境への強い配慮を感じさせます。
さらに同社では、中古品のリファービッシュ販売や部品単位での修理提供など、消費を前提としないサービスにも注力しているとのこと。「壊れないモノを作ることは、売上の面では不利かもしれませんが、私たちは“未来の世代”への責任を果たしたいのです」とアーノルト氏は語ります。
ビジネス環境にも“人間工学”の視点を
こうしたプロダクト思想は、ビジネスの現場でも大いに参考になりそうです。毎日使う椅子やデスク、ノートPCやスマートフォンなど、身体に近い道具こそ、使う人の視点に立って設計される必要があるでしょう。作業効率や集中力、生産性を高めるためにも、人間工学の視点を取り入れることは重要といえます。
プロダクトも仕事道具も、「誰が、どのように使うのか」を見つめ直すことで、より健やかで効率的な働き方が実現できるのかもしれません。