自動改札機は大阪発!ロンドン地下鉄を追い抜いた開発秘話【実は日本が世界初】

誰もが当たり前に使っているサービスや道具が、世界で初めて日本で生まれていたという話を紹介する連載。今回は、都市部の人は特にお世話になっているはずの自動改札機の歴史を紹介します。
最初の設置はロンドン地下鉄

「世界で初めて」という言葉は、意外にも定義が難しいです。何をもって世界初とするのか、前提条件によって、いくつもの「世界初」が言えてしまうからです。
自動改札機も一緒で、何をもって世界初と決めるかによって、答えが変わってしまいます。
正真正銘、自動改札機が、本物の鉄道駅に設置された最初のケースはロンドン地下鉄になります。1964年(昭和39年)、ロンドン西部にあるロンドン地下鉄のスタンフォードブルック駅に、自動改札機が世界初で設置されました。
挿入口からチケットを入れ、チケットを受け取り、ゲートを自分で押し開く構造です。いわば、現在の自動改札機とほぼ変わりません。
しかし、この自動改札機は、当時の映像でもはっきり確認できるように「Experimental Ticket Gate(実験的な改札口)」でした。そのため、当時の映像を見る限り、入場者の通過時にもたつきが見られます。言い換えると、スピーディーに人が通過できません。
また、日本の定期券のような異なる大きさ、用途のチケットも挿入できませんでした。
現に、大阪に本社を置く近畿日本鉄道が、このロンドン地下鉄の自動改札機の存在を知りながら導入を断念し、独自開発に踏み切った背景には、当時の日本独特の問題がありました。
当時、定期券専用の自動改札機の開発が求められていた社会的状況が日本にはあり、そのための独自開発が、自動改札機の世界初の実用化を生んだわけです。
定期券も使える自動改札機の開発
日本で、自動改札機の開発を目指して研究会が発足された時期は1964年(昭和39年)です。ロンドン地下鉄で実験機が駅に置かれた年と一緒です。
1950年代後半からの急激な経済成長、就業人口の都市部集中、鉄道旅客数の激増が、ターミナル駅のラッシュを生み、けが人が続出する事態が発生していました。
さらに、定期券の割引率が今よりも高く、定期券がよりお得だったため、定期券を持った通勤者と通学者が朝のラッシュに殺到していました。
その問題解決のため、ロンドン地下鉄の自動改札機ではなく、独自の自動改札機の開発が、近畿日本鉄道(近鉄)主導で始まります。
技術的な課題の解決として大阪大学、改札機の共同開発企業として立石電機(現・オムロン)が参画し、1965年(昭和40年)2月に試作1号機、試作2号機が同年6月に完成します。
試作3号機については、近鉄・阿倍野橋駅の定期券専用改札口に設置され、1966年(昭和41年)3月~4月に試用実験が開始されました。
その後、同年4月に投入された試作4号機が、毎分50~60人の改札が誤動作なしに実現されると確認され、いよいよ実用化への道が開けたのですね。
最初の実用化は日本
しかし、問題が発生します。双方共通の乗車券が使える連絡改札口を持つ国鉄(現・JR)との間で、自動改札機の導入に対する温度差が生じます。
言い換えると、連絡改札口を持つ国鉄が認めなかったため、開発者である近鉄は、実際の業務運用に際して大きな壁に直面してしまったのです。
そこで、改札機の共同開発に携わった立石電機(現・オムロン)が、各鉄道会社に営業活動を展開し、阪急電鉄(阪急)との間で話がまとまります。
上述の試作機4号機をベースにした、阪急向けの改札機を開発し、阪急の千里線延長時に新設される北千里駅で10台の設置が実現しました。1967年(昭和42年)3月の出来事です。
その後、切符の出入場記録を管理する磁気ストライプの標準規格が制定されると、近鉄を含めた関西の大手私鉄、大阪市営地下鉄に導入が進んでいきます。
結果として関西では、1975年(昭和50年)末までに導入が一気に進みました。一方、鉄道網の入り混じる関東では導入が遅れたものの、記憶量が飛躍的に向上した磁気規格が1990年(平成2年)に誕生すると、路線をまたがって使用された定期券・乗車券が管理できるようになり、関東の鉄道でも導入例が一気に増えていきます。
自動改札機を最も早くつくった国のひとつは日本

以上が、自動改札機の大まかな歴史ですが、実際問題、世界初かどうかは微妙だと感じた読者の方もいるはずです。
ロンドンで実験機が投入された時期は1964年(昭和39年)。その自動改札機が、ロンドン地下鉄のヴィクトリア線の全駅に設置されたタイミングは1968年(昭和43年)です。
一方、上述したとおり、日本の自動改札機はスタートが遅れているものの、1967年(昭和42年)3月には、実際の駅で実用化を開始しています。
その意味で、ロンドン地下鉄を追い抜いた功績はあるのですから、自動改札機の誕生国のひとつを日本と言っても大きな間違いではないはず。
以上の歴史を踏まえ、普段何気なく通っている自動改札機をあらためて意識して通過してみてください。ちょっとだけ、感慨深い気持ちになれるかもしれませんよ。
[文・坂本正敬]
[参考]
※ IEEE Milestonesものがたり―関西が生んだイノベーションを中心にして― – IEICE 基礎・境界ソサイエティ
※ STAMFORD BROOK AUTOMATIC TICKET MACHINE FOR UNDERGROUND STATION (1964) – British Pathé
※ Ticket gate; Victoria line Automatic Fare Collection gate, 1968 – London Transport Museum
※ Automation of Ticket Issuing and Checking in Japan – 東日本鉄道文化財団
※ Automated Railway Ticket Gate System Named IEEE Milestone – OMRON
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