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「インスタントラーメンは日本生まれ」は本当か?発明者も諸説ある国民食の歴史【実は日本が世界初】

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「インスタントラーメンは日本生まれ」は本当か?発明者も諸説ある国民食の歴史【実は日本が世界初】

世界中で使用される商品やプロダクトが日本で実は生まれていたという話を取り上げる本連載。今回は、日ごろ口にする機会も多い即席めん、中でも即席中華めん(即席ラーメン)、通称インスタントラーメンの始まりを紹介します。

インスタントラーメンは70年ほど前の日本で生まれた?

カップ麺のイメージ
※画像はイメージです ©️PIXTA

即席うどん、即席そばなど、即席めんにもいろいろあります。

しかし、即席中華めん(即席ラーメン)が最も親しまれているため、本来は一部の呼び名であるインスタントラーメン(即席中華めん)が、即席めん全体を代表する役割になっていると、日本即席食品工業協会の公式ホームページに書かれています。

この「インスタントラーメン(即席めん)」の国内生産量・消費量は、1950年代後半以降、細かいアップダウンがあるものの、全体で見ると大きな右肩上がりを見せています。

例えば、1962年(昭和37年)の1人当たりの消費量は1年で10食程度でした。しかし、2022年(令和4年)にはほぼ50食に近付く勢いにまで伸びています。言い換えれば1カ月で4食ほど、1週間に1回は食べられているペースです。

世界の消費量はもっとすごいです。世界ラーメン協会(WINA)によると、2024年(令和6年)の年間消費量は、日本(第5位)が59億食である一方、1位の中国(香港を含む)は438億食です。2位のインドネシアは146億食、3位のインドは83億食といった感じです。

日本よりも人口の少ないベトナムですら4位で81億食ですから、世界での浸透ぶりがわかります。

この世界商品である「インスタントラーメン(即席めん)」は、今から70年ほど前の日本で生まれたとされています

最初の発明者に関しては異なる見解がある上に、初期の開発に携わった主要な人物は全員が台湾出身者であるため、日本人が発明したとは言えません。

しかし、それらの人物全員が日本で活動して開発・普及に努めたという意味で考えれば、インスタントラーメンは日本で生まれたと言っても大きな間違いではないはずです。一体、どういった背景や物語があるのでしょうか。

チキンラーメンは元祖ではない?

インスタントラーメンのイメージ
※画像はイメージです ©️PIXTA

一般的に、インスタントラーメン(即席中華めん)を最初につくった人は安藤百福(あんどうももふく)さんと言われています。台湾出身の企業家で、日本に渡り、中交総社という会社を1948年(昭和23年)に創立し、食品販売事業を営んだ人です。

その後、1958年(昭和33年)に、即席中華めん〈チキンラーメン〉を発売して大ヒットさせた人です。後の日清食品の創業者ですね。

同社の公式ホームページによると安藤さんは発売の前年、大阪府池田市にある自宅の小屋で、インスタントラーメンの開発に着手しているそうです。

大阪市東淀川区(現・淀川区)にあった自動車部品工場跡の倉庫を後に生産工場にして1958年(昭和33年)には、チキンラーメンの生産を開始しています。

発売時には、扱ってくれる食品問屋がほとんどなかったそうですが、大阪中央卸売市場で正規の販売を開始すると大ヒット。高槻本社工場を同年に完成させ、1日で10万食を生産するものの、注文に生産が間に合わないくらい売れたそうです。

しかし、この発売から大ヒットの出来事が、世界初の誕生ストーリーかどうかは異なる意見があるようです。

インスタントラーメンを大ヒットさせた人は安藤百福さんである点は間違いがないものの、それ以前に同じく台湾出身の張国文さんという人が日本で立ち上げた東明商行が即席めん〈長寿麺〉を販売していて、1956年(昭和31年)の第一次南極観測隊の食料リストにも同商品が入っていると記録が残っているそうです。

東明商行の出した長寿麺に関する当時の新聞広告には以下のような宣伝文句が実際に確認できます。

“常備食・携帯保存食 即席ラーメン 東明 長寿麺”

“熱湯だけで召上れる! 味付け切不要 美味・栄養・便利な味入り乾燥麵”

“ヒマラヤ遠征隊 南極越冬隊御採用”

(いずれも新聞広告より引用)

新潮社フォーサイトの記事には、張国文さんの子孫のインタビューが掲載されています。同インタビューでは、チキンラーメン発売以前に行われた日本経済新聞の特集記事や、経済史〈実業界〉の特集内容を根拠に、長寿麺の方が先に世の中に存在していたという主張が展開されています。

インスタントラーメン(即席中華めん)が1950年代の後半に乱立し、模造品が出回って、さまざまな争いが生じていたため、安藤百福さんと張国文さんが話し合い、張国文さん取得の即席めんに関する特許を安藤百福さんに対して譲渡したと記録する譲渡契約書類も同記事では明かされています。

要するに、インスタントラーメンが日本で誕生はしているものの、具体的な発明者が誰であるとまではなかなか言えない側面があるのですね。

揚げた細めんを湯戻しして使う「鶏絲麺」が起源?

また、チキンラーメンにせよ長寿麺にせよ、油で揚げためんをお湯で戻して食べるという点では共通していて、その「めんを揚げて乾燥させる技法」は、安藤百福さんや張国文さんの出身国である台湾ではさらに前から普及していました

例えば、調理時間を短縮するために、ラードで揚げた細いめんを湯戻しして使う「鶏絲麺」の存在を、インスタントラーメンの起源だと挙げる専門家もいます。「鶏絲麺」の場合、持ち帰りを希望するお客には、湯戻し前の揚げためんを油紙に包んで渡していたそう。

こうした台湾の食文化が、台湾出身者によって日本に持ち込まれ、日本でも普及していったという考え方も成り立つわけです。

とはいえ、こうした台湾の伝統をベースに、流通可能な形で製品化し、工場で大量生産して、大衆化させた動きは日本で行われています。その意味で、インスタントラーメン(即席中華めん)は、日本で生まれたと言っても大きな間違いではないのですね。

[参考]
第51回 インスタントラーメンの発明と、夏目漱石の夢十夜が教える意味
※ 日本農林規格の改正について「即席めん」 – 農林物資規格調査会
チキンラーメン誕生秘話 – 同志社女子大学
即席ラーメン記念日(8月25日)|意味や由来・広報PRに活用するポイントと事例を紹介 – PT TIMES MAGAZINE
HISTORY – 日清グループ
中華そば – 都一
NHK『まんぷく』。 日本での「元祖インスタントラーメン」はチキンラーメンではなかったのか。 – HUFFPOST
※ 即席めん市場の活性化とブランドの確立
※ 最新!インスタントラーメンに関する意識調査結果 – 日本即席食品工業協会
※ 第4回個別品目ごとの表示ルール見直し分科会 即席めん – 日本即席食品工業協会
「インスタントラーメン」の細かい分類ってどんなもの? – ニッポン放送
インスタント ラーメン概要 – 日本即席食品工業協会
※ 即席めん類の輸出 – 東京税関
日本が生んだ世界消費量、“1,036億食”の食料品! – KEYENCE
Demand Rankings – World Instant Noodles Association
時代と共に進化する台湾の即席めん – 台湾光華画報雑誌社

〈bizSPA!〉元編集長。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉創刊編集長。国内外の媒体に日本語と英語で寄稿し、翻訳家としては訳書もある。技能五輪国際大会における日本代表選手の通訳を直近で務める。東証プライム上場企業の社内報や教育機関の広報誌でも編集長を兼務しており、広報誌の全国大会では受賞経験もあり。

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