寝ている間に米が炊ける!電気炊飯器ヒットの裏にあった意外な歴史【実は日本が世界初】

このところ、電気炊飯器の需要は世界的に高まっているそうです。2024年(令和6年)には36億米ドル(約5,400億円)だった市場規模が、2025年(令和7年)には38億米ドル(約5,700億円)に拡大し、2034年(令和16年)には64億米ドル(約9,600億円)にまで成長すると見込まれています。
その電気炊飯器を生んだ国はもちろん日本。ただ、いつ、電気炊飯器が生まれたのか、詳しい歴史を知っている人は少ないのではないでしょうか。そこで今回は、電気炊飯器の歴史を振り返ってみました。
自動式電気釜の登場は1955年

最初に、言葉の定義を整理します。そもそも「炊飯器」とは、電気またはガスを熱源としてお米を炊く器具と辞書に書かれています。言い換えると、炊飯用の器具です。
炊飯の意味は「飯を炊く」です。「炊」の字は、漢字辞典によると、火+吹だとわかります(口偏は省略)。人が背をかがめて口を開け、しゃがんで息を吹きかけ火をおこす(息を吹いて火を燃やして米を炊く)様子を描いています。
日本人はかつて、昭和時代の戦後まで長らく、かまどと羽釜(はがま、釜の周りにUFOの羽根のような部分が付いた釜)を使って、実際に火を燃やし、お米を炊いていました。
もちろん、昭和時代に入ると、熱源の違い(ガスの使用)などは全国で見られるようになっていたそうですが、羽釜でお米を炊き、木製のおひつに移し、土間などの台所から食事場所に運び、寒い時期になるとおひつをふごに入れて冷めにくくするといった光景は共通して存在していました。
この風景を一変させた家電が、1955年(昭和30年)に東芝が世界初で発売した自動式電気釜ER-4になります。
かまど+羽釜の伝統を初期の電気釜は打ち破れず
もちろん、これ以前にも、電気エネルギーによって得られる熱を使った炊飯器(電気釜)は存在しました。1921年(大正10年)には日本初の炊飯電熱器、1924年(大正13年)には電気釜が現れたといくつかの百科事典にも書かれています。
昭和に入り、満州事変(1931年、昭和6年)が起きてから数年後には、帝国陸軍の炊事自動車にも、電極式の(通電による熱を用いる)炊飯装置が搭載されています。日中戦争(1937年、昭和12年)の際には、独立混成第一旅団に、戦地でもご飯が炊ける炊飯装置が搭載された炊事自動車が配置されています。
その後、第二次世界大戦、敗戦後の復興、朝鮮戦争の特需による景気低迷からの脱出を日本人は経験しました。その間、電気冷蔵庫、洗濯機、掃除機といった「三種の神器」が各家庭に一気に広まっていきます。
同時に、炊飯器の開発・改良の競争も各メーカーの間で展開されていました。しかし、それまでに発売されていた電気釜は、それほどのヒットを見せていませんでした。その理由は、それほど便利ではなかったからだとされています。
もちろん、釜の内部に発熱体を仕込む電気釜は、かまどと羽釜を使ってお米を炊く従来の炊飯の行為を一部軽くしてくれていました。具体的には、かまどで火を燃やし、火加減を気にして、炊いた後の羽釜のすすを洗い、かまどの後始末をするなど、いくつかの家事の負担は免除されるようになっていました。
しかし、手動でスイッチを切らなければならない(完全に放ってはおけない)電気釜の需要はそれほど高くありませんでした。それでいて、羽釜ほどおいしく炊けないので、姑(しゅうと)から嫁へと、火加減、水加減、炊き加減の奥義が伝授されていく伝統を崩すほどの力を持っていませんでした。
寝ていてもお米が炊きあがる仕組み
その人々の行動様式を大きくひっくり返した発明品が、東芝の開発した自動式電気釜です。炊飯が終了した時点で自動でスイッチが切れる「自動式」電気釜は、炊飯の負担をさらに免除するポテンシャルがありました。
しかし当時、「炊飯器は売れない」という「常識」があり、本当に自動で炊けるのか半信半疑だった家電量販店が販売に乗り気にならなかったみたいです。
そこで、東芝の家電部門の人たちは、700個の自動式電気釜ER-4を全国の農村に持ち込み、実演販売を繰り返しました。
すると、その利便性がまず、農家の女性の心を動かします。自動的に電源がオンになるタイマーも別途で販売されていたので、夜寝る前にセットしておけば、朝起きたときにお米が炊けています。その画期的な変化に「一時間寝坊できる」と農家の女性たちが大喜びしたのですね。
この自動式電気釜の販売価格は当時、3,200円だったという記録があります。公務員の初任給が10,000円に満たない時代だったので、なかなかの価格です。その価格の高さが、先述の家電量販店の人たちに二の足を踏ませた側面もあるそうです。
しかし、別売りのタイマーを組み合わせれば寝ていてもお米が炊ける利便性が支持され、生産が追い付かないほどの売れ行きを見せました。
他のメーカーも後追い始め、販売から5年後の1960年(昭和35年)、自動式電気釜の家庭保有率は20%を超え、発売から10年後の1965年(昭和40年)には70%を超えました。

その後、長時間保温できるジャー炊飯器が登場し、電磁誘導加熱(IH)炊飯器が発売され、高級IH炊飯器へと進化していきます。
この日本で発展をつづけた電気炊飯器が今では、世界へと飛び出し、市場規模の拡大に大きく貢献しているのですね。
[参考]
※ ランドマーク商品としての自動炊飯器 – 岩見憲一
※ 世界大百科事典 – 平凡社
※ 日本大百科全書 – 小学館
※ 電気炊飯器 – NHKアーカイブス
※ 炊飯器の歴史とヒミツ – 家電製品協会
※ PRODUCT HISTORY 炊飯器 – 東芝
※ 電気釜から最新のIH式まで。炊飯器の歴史を解説! – ハイアールLIFE STYLE
※ 進化し続ける炊飯器。炊きたて昭和館。- TIGER
※ 電気炊飯器は日本で誕生した!白く輝くご飯の向こうに浮かぶ開発魂の笑顔 – CBC
※ 炊飯器の歴史 – 日本電機工業会
※ 炊飯・電気パン・パン粉製造にいたる日本の電極式調理の歴史-陸軍「炊事自動車」を起源とする電気パン実験-
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