異例ずくめのトランプ大統領就任演説【やさしいニュースワード解説】
在京の大手メディアで取材記者歴30年、海外駐在経験もあるジャーナリストが時事ニュースをやさしく解説。今回は、「トランプ大統領就任演説」です。
トランプ氏の2度目のアメリカ大統領就任式
ドナルド・トランプ氏が1月20日に第47代アメリカ大統領に就任しました。2017年から21年まで一度大統領職にありましたが、2020年の大統領選でジョー・バイデン氏に敗れ、1期で退いていました。2度目の就任式は、首都ワシントンの厳寒を避けて40年ぶりに屋内会場で行われました。
就任演説でトランプ大統領がどのような政策を打ち出すかが注目されていましたが、世界が懸念していたように異例の内容となりました。
非常に異例かつ独善的な演説内容
歴代大統領は就任式でアメリカが目指す国家像や国民の団結、世界との協調、国民生活の希望や安定といった崇高な理念を表明するのが常であり、美しい表現やレトリックを使って理想を高らかに掲げるのがこれまでのスタイルでした。しかし、今回のトランプ氏の演説は非常に異例かつ独善的な内容となっていました。
「米国の黄金時代がいま始まる」という言葉から始まり、南部国境での国家非常事態宣言と不法移民の排斥、メキシコ湾をアメリカ湾に改称するほか、パナマ運河の管理をアメリカに取り戻すことなど、過激な方針が散りばめられた内容でした。崇高な理想を示すという姿勢からはほど遠く、第2期トランプ政権が目指す異質な方向性を集約させたという印象でした。
過剰な自信を見せつけたトランプ大統領
昨年、選挙戦の演説中に銃撃され、耳に怪我を負ったことについては、「アメリカを再び偉大にするために神に救われた」との表現を使い、自分こそがアメリカを地球上で最も尊敬される国家にできるという過剰なまでの自信を見せつけました。アメリカ国内の分断が言われて久しいですが、そうした課題を解決することよりも、世界の中でアメリカだけが強ければいいというような主張が強く示されました。
日本の政府・経済界も冷静な対処が必要
経済面では、インフレを沈静化するため、物価引き下げのためのあらゆる力を結集することや、国家エネルギー緊急事態を宣言し、エネルギーコストを引き下げる方針を打ち出しました。さらに、外国に高い関税を課し、保護主義の姿勢をとることや、電気自動車の普及策を撤回し、環境対策には消極的な姿勢も鮮明にしました。
こうしたトランプ氏の姿勢が日本を含む世界各国との関係にどのように影響してくるかは、今後大きな焦点となります。特に高関税政策については自由貿易体制の大きな危機になるほか、地球環境問題に関心を示さない姿勢などは、国際社会がこれまで協力して構築してきた枠組みに逆行する内容です。
日本はトランプ新大統領のこうした方針に対し、政府のみならず経済界も出方を見極めながら冷静に対処することが必要となりそうです。