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【世界の働き方事情・アメリカ】最低時給2,300円でも50%は生活費のやりくりに苦労

コラム

世界の働き方事情・アメリカ2

海外在住ライターや海外で働いた経験を持つライターが、各国の仕事事情を紹介するシリーズ「世界の働き方事情」。

世界一の経済大国といわれるアメリカ。その中でも全米最大都市ニューヨークの職業事情については、あなたも興味があるのではないでしょうか。米・ニューヨークで急増した「スーパー通勤」とは。世界有数の高時給でありながら、生活費のやりくりに苦労する理由とは。ニューヨークの職業事情を、現地在住ライターが紹介します。

地下鉄やバスからオフィス・ワーカーが消えた?スーパー通勤って何?

Photo : Shutterstock.com

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コロナ禍以降、地下鉄やバスなど公共交通機関で、スーツを着たオフィス・ワーカーを見かけなくなりました。乗っているのは、工事現場や飲食系などで働くブルーカラーや学生など庶民ばかり。いったいオフィス・ワーカーはどこに消えたのでしょう? オフィス街では見かけるので、どうやら別の交通手段で通勤しているようです。

コロナ禍で世界最多感染都市ニューヨークから多くの人が出ていき、家賃が安く環境がよい他州や郊外に移住しました。ビジネスインサイダーの記事(2024年6月17日)によると、近年「スーパー通勤者」が一般的になっているとのこと。

スーパー通勤者とは、仕事のために片道75マイル(約120km)以上バスや電車、自家用車、飛行機で移動する通勤者で、通勤に費やす時間は合計1日5時間近く。ニューヨーク市ではスーパー通勤者が89%急増し、すべての通勤の1.9%から3.6%になりました。リモートワーク(在宅勤務)の定着により、毎日出勤する必要がなくなったからです。

また人混みでの感染を恐れ、ニューヨーク市内および隣のニュージャージー州一部で利用できる、セルフサービスのレンタル自転車“シティバイク”が人気。自転車ステーション(乗降場所)が多いため、借りるのも返却するのも便利。満員の公共交通機関に乗りたくない通勤者に、レンタル自転車通勤が好まれています。

コロナ後はリモートワークが約5倍に増加!出社は平均週3日程度 

2024年7月22日 ニューヨーク市マンハッタン  オフィス街を歩くオフィス・ワーカー ©️Hideyuki Tatebayashi

2024年7月22日 ニューヨーク市マンハッタン  オフィス街を歩くオフィス・ワーカー ©️Hideyuki Tatebayashi

コンピューターさえあれば仕事が可能なオフィス・ワーカーは、コロナ後はリモートワーク(在宅勤務)が約5倍に増加。現在は在宅と出社を組み合わせたハイブリッド型の会社が大半であり、企業の最低出社日数は、平均「週3日」程度で定着しつつあります。通勤や人間関係のストレスがなく、子育てもできるリモートワークを希望する人が多く、完全出社の企業を好まない傾向が見られます。

残業はしない。定時で帰るニューヨーカー

ニューヨーク市では、1週間あたりの勤務時間が40時間を超えた場合、時給が1.5倍になります。人件費を抑えたい企業は残業を好まず、「残業はしないように」と定時終了を推奨します。そのため定時になると、職場はガランとしています。

早出や残業代は付かない管理職や専門職

多くの従業員が帰ったガランとした職場で、残業している職員もいます。一般的にCEO(最高責任者)や管理職、専門スキルがある研究者・技術者などは高賃金の年俸制がほとんどで、支給は隔週など分割して支払われます。

ニューヨーク市では、2024年7月時点で、年収4万3,888ドル(約630万円)以上収入がある場合、時間外手当は支払われません。ただし彼らは仕事が多忙なため、支給されなくても早出や残業をせざるを得ない場合も多いのです。

【ニューヨーク州労働法により超過勤務手当が免除される職種】
・幹部社員
・管理職員
・専門職社員
・社外営業マン
・連邦政府、州政府、または地方自治体に勤務する個人
・農場労働者
・特定のボランティア、インターン、実習生
・タクシー運転手
など

ニューヨーク市の最低時給は16ドル(約2,300円)!それでも生活費のやりくりは苦しい

ニューヨーク市 エンパイア・ステート・ビルディング近くにて OLらしき女性 ©️Hideyuki Tatebayashi

ニューヨーク市 エンパイア・ステート・ビルディング近くにて OLらしき女性 ©️Hideyuki Tatebayashi

時給制で働く従業員の場合、ニューヨーク市の最低時給は、2024年1月から16.00ドル(約2,300円)です。さらに2025年と2026年は毎年時給50セント(約70円)ずつの最低賃金引き上げが確定しており、2027年は北東部地域のインフレを測定する経済指数”CPI-W”に基づき最低賃金の引き上げが検討される予定です。

最低賃金
ニューヨーク市の最低賃金

[出典]
Minimum Wage | Department of Labor
ニューヨーク州最低賃金(PDF)

ニューヨーク市の最低時給16.00ドルは日本に比べると高額ですが、仕事を持つニューヨーカーの50%は生活費のやりくりに苦労しているという報告書(NYC TRUE COST OF LIVING)が出ています。

2000年のコロナ禍以降、物価は131%上昇し、2024年9月現在ニューヨーク州ニューヨーク市の平均家賃は月額3,867ドル(約55万円)です。これは全米平均家賃価格の月額1,564ドルの約2.5倍になり、ニューヨークは米国でアパートを借りるのに最も高価な都市のひとつ。

筆者を含め多くのニューヨーカーが、家賃のために働いているように感じています。人件費が高いということは、生活必需品や外食費、公共交通機関などすべてに反映され高価格になるのです。

物価高で家賃が高く、治安が悪いニューヨークから、アメリカの他州や他国へ人口が流出。コロナ禍の2020年4月以降、ニューヨーク市からは50万人以上も人口が減少しているという国税調査の結果が出ています。前述のスーパー通勤者然り、ニューヨーク市在住にこだわる必要もなくなり、ニューヨークを北上したコネチカット州、ハドソンリバーを挟んで隣のニュージャージー州など通勤可能な州への転出も多いようです。

ニューヨーク市から多く流出した他州では、金融界の本社がこぞって移転したフロリダ州、税負担が低いテキサス州など。日本人にはトヨタや三菱重工業、クボタ、ダイキン工業などがアメリカ本社を移転し、日系企業が約350社(2024年7月ジェトロ記事による)もあるテキサス州が人気の移住先です。

次回はニューヨーカーの休暇についてお届けしますので、引き続きご愛読ください。

PHOTO:Hideyuki Tatebayashi & Shutterstock
*Do not use images without permission.

【参照】
ニューヨークなどで往復5時間かける「スーパー通勤」が急増 ビジネスインサイダー 2024年6月17日
出社は平均「週3日」 米国のリモート、日欧より普及 JIJI COM 2024年04月07日
Overtime Frequently Asked Questions (FAQ) | New York State Department of Labor
Final Rule: Restoring and Extending Overtime Protections:U.S. DEPARTMENT OF LABO 2024年4月23日
NYC TRUE COST OF LIVING:United Way of New York City and The Fund for the City of New York
Average Rent in New York, NY – Apartments.com
NY市から約54万6000人が脱出、20年4月以降-ペース鈍化も流出継続:ブルームバーグ 2024年3月15日
55万人他州へ転出 週刊NY生活 
ウォール街を捨てる金融企業、NYから流出する資産は1兆ドル:フォーブス 2023年8月29日
アボット米テキサス州知事が訪日、ジェトロとの共催イベントで日本との協力強化に期待(米国、日本)ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年7月12日

[文/青山沙羅]

はじめて訪れた瞬間から、NYに一目惚れ。恋い焦がれた末、幾年月を経て、ついには上陸。旅の重要ポイントは、その土地の安くて美味しいものを食すこと。特技は、早寝早起き早メシ。人生のモットーは、『やられたら、やり返せ』。プロ・フォトグラファーの夫とNY在住。

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