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EURO2024でスペインが優勝!なぜ選手たちは国家斉唱で歌わないのか?

学び

スペイン国歌に歌詞がない理由

インターネットやSNSで世界中の情報がリアルタイムで手に入る時代、オンライン会議で日本はもちろん、海外のどこにいてもコミュニケーションできるのが当たり前となった。ビジネスパーソンなら海外のビジネス関係のニュースも押さえておきたい。

そこで、各国の情勢に精通しているピエール・パパンさんに、最近のスペイン情勢について解説してもらった(以下、ピエール・パパンさんの寄稿)。

EURO2024で優勝したスペインの選手は国歌を歌わない

ドイツで開催されていたサッカーのUEFA欧州選手権「EURO2024」(以下、ユーロ)が終わった。その結果、スペインが3大会ぶり4回目の優勝を果たした。ドイツ、フランス、イングランドという強豪国を次々に撃破してのタイトル獲得ということで、スペインは名実ともに欧州ナンバーワンになったといえよう。

一方、スペイン代表は今回のユーロで決勝まで7戦を戦ったのだが、それは同時にスペイン国歌が試合前に7回流れたことを意味する。しかし、スペイン選手たちはスペイン国歌が流れていた際、まったく歌わなかったのだ。なぜだろうか。

その理由は、スペイン国歌には、そもそも歌詞がないからだ。国歌斉唱の際、一般的にはどの国の選手も誇りを持って国歌を歌う。当たり前だが、そもそも歌詞がないのに歌うことはできない。よって、ドイツやフランスなどの国歌が流れた際、両国の選手たちは大声で国歌を歌うが、スペイン国歌ではメロディーが流れるだけなのだ。

スペイン国歌に歌詞がない理由

では、なぜ、そもそも歌詞がないのか。それはスペインが難しい事情を抱えている国家だからだ。スペインは単一民族国家だと思うかもしれないが、観光地では有名なバルセロナはカタルーニャ地域であり、カタルーニャ人はカタルーニャ語を話し、独自の文化と歴史を持つ。

近年でも2010年代以降、スペイン中央政府がカタルーニャを軽視したことがきっかけで、断続的にカタルーニャの独立を求める政治運動、抗議デモが発生している。

また、スペイン北東部にはバスク地方があるが、バスク地方のバスク人もバスク語を話し、独自の文化と伝統を持つ。バスク地方もスペインからの独立を求める声が強く、それを求めるテロ組織「バスク祖国と自由」(ETA)が長年スペインに向けてテロを起こしてきた。

2017年に武装解除し、今日ではバスク由来のテロの脅威はなくなっているが、本音では独立を希望するバスク市民は少なくない。ちなみにサッカー日本代表の久保建英がプレーするレアル・ソシエダの本拠地はバスク地方にある。

今回のユーロ決勝で決勝点を決めたオヤルサバル選手はバスクの出身だが、地元からは「スペイン代表は受け入れられない」「スペインの優勝はうれしくない、自分たちの国家ではないからだ」「スペイン政府がバスク代表としてプレーする権利をバスク人に認めていない」などと批判的な声が根強い。

このような事情をスペインは長年抱えており、国歌で歌詞を設けても、それはスペイン語であり、スペインの文化や伝統が優先されることになり、そういった国歌をバスクやカタルーニャが満足するはずはない。よって、少数派に配慮した形であえて歌詞がないのだ。

フランスのパリやカンヌなどに留学し、フランスやその他の国々を旅し、ライティング活動を行っている。

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