人へ投資する企業を探す転職ツール発見。働きやすい・成長できる会社を可視化するサイトが一般公開中
「人的資本」という言葉を知っているだろうか。確固たる定義はないものの大まかに言えば、働く人は会社の資本であり、投資の対象となるといった考え方だ。
いわば「人への投資」であり、この「人への投資」にどれだけ力を入れているか、2023年(令和5年)3月末決算から、上場企業に開示が義務付けられた。
この人的資本は当然、経営者にとって重要な課題となり、投資家が企業に投資する際の注目ポイントにもなる。ただ、普通の若手会社員にも決して無関係な話ではない。
例えば、転職を考える際の業界リサーチでも、各業界・業種に属する主だった企業が働く人をどのように扱っているか、大まかにイメージする際の手助けになってくれる。
そこで今回は、人的資本という耳慣れない言葉に注目しつつ、その人的資本の情報を転職などで役立てる方法を、ライターの西門香央里が、株式会社カオナビ(東京都渋谷区)の担当者に聞いた。
カオナビとはそもそも、人材データベースを活用して、企業の人材活用・マネジメントに関するサポートを行う企業だ。そのカオナビが、上場企業が開示する資料に掲載された人的資本情報をどこよりも早くデータベース化し〈人的資本データnavi〉として一般公開してくれている。
転職までは考えていなくても、自分の働き方や待遇が、同業他社や異業種と比較してどうなのか、チェックしてみたい若手社員たちもぜひ、最後まで読んでもらいたい(以下、西門香央里の寄稿)。
「人への投資」状況をデーターベース化したツール
皆さんは、就職や転職活動の際に、企業のどんな情報に注目しているだろうか? 筆者は、これまで10回以上の転職を繰り返してきた。自分の条件にしっくりくる企業を探す作業は、なかなか困難だ。
例えば、新しい就職先の企業の男女賃金格差や育休取得率などが気になっても、一方的に企業が発信する求人情報などでは、なかなか見えないケースも多い。
そんな中、2024年(令和6年)1月18日に一般公開されたカオナビの〈人的資本データnavi〉の存在を知り、転職や就職に役立つ新たなツールとしての可能性を感じたので、その内容を紹介していく。
そもそも、カオナビが提供する〈人的資本データnavi〉とは、名前のとおり人的資本のデータを扱うオンラインツールだ。
2023年(令和5年)3月末決算から、男女間賃金格差、男性育児休業取得率、女性管理職比率といったの多様性3指標に加えて、人材育成方針、社内環境整備方針などの情報開示が上場企業に義務付けられた。
具体的には、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与、女性役員比率、および任意開示が期待される項目などが有価証券報告書(以降、有報)に記載がされるようになった。
これらの数値をいち早く収集し、データーベース化したツールが〈人的資本データnavi〉となる。
現時点で、2023年(令和5年)末決算の上場企業2,329社が、EDINET(金融取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)に提出した有価証券報告書の内容を反映している。
全上場企業の約6割に及ぶ膨大なデータを元に、各社実績数値、およびヒストグラム(量的データの分布を、棒グラフに似た形で表現したグラフ)を確認できる。
言い換えると、個人では収集しきれない「有報」のデータを正確かつ、素早く、直感的に把握できるのだ。
各種条件による検索機能は就職活動や転職活動にも役立つ
どうして、このツールが、就職や転職時に役立つのか。現時点で〈人的資本データnavi〉はあくまでも企業向けツールだ。
しかし、以下の項目が、各種の条件の下でまとめて検索できるため、就職活動や転職活動をする人たちに役立つと考えられる。
開示が義務付けられている項目
・平均年齢
・平均勤続年数
・平均年間給与
・男女間賃金格差
・育児休業取得率
・役職者の女性比率
任意開示が期待されている項目
・従業員1人あたりの平均研修時間
・従業員1人あたりの平均研修費
使い方はとても直感的だ。トップページから確認したい項目をクリックするだけで、グラフが表示される。
この状態では、登録された全企業の数値をグラフ化した情報しか出てこないが、そこから絞り込みももちろんできる。
例えば「従業員数 11人〜100人」、業種「情報・通信業」、本店所在地「東京」などと条件を絞り込むと、企業名リストに加え、業界のスタンダードがグラフで表示される。
グラフ下の企業リストをクリックすれば、各企業の状況を細かくチェックもできる。
転職希望の企業が上場企業ではなく〈人的資本データnavi〉に個別の情報が掲載されていなかったとしても、自分の応募先や応募予定の業界研究にも役立つはずだ。
例えば、男性育児休業取得率について調べてみると、情報・通信業では中央値が50%となっている。しかし、銀行業で絞り込むと、中央値が93.35%という結果になっている。
これらの情報を駆使して「上場企業ですら、男性の育児休業取得率が50%程度の業界にありながら、銀行業並みの数字を維持する御社の取り組みは誠に素晴らしいと思います」などと、面接時に語れる場合もあるはずだ。
人的資本の視点で企業の内情を可視化
〈人的資本データnavi〉では、さまざまな業種の人的資本データを見られるため、見比べるだけでも単純に面白い。
就職活動の際は、自分が志望する業種に情報収集を絞り込みがちだが、人的資本を軸に、他業種の結果を見てもいいだろう。視野が広がり、新しい就職先の検討につながるきっかけにもなりそうだ。
個人の情報収集力ではこれまで把握が難しかった企業の人的資本の内情を見られる〈人的資本データnavi〉が転職希望者にもたらすメリットは以上を見ても明らかだろう。
これまで注目しにくかった人的資本という視点で企業の内情を可視化するこのツールが将来的には、学生や求職者の間で利用されていく未来を期待したい。
もちろん、本来の目的として、人的資本経営のKPI(重要業績評価指標)を設定する際などに、この手の情報源を参考する企業(人事担当者)が増えればとも願う。
その結果、人材と企業の関係性に改善が生まれ、生産性が低いと指摘される日本の社会に、いい影響を与える場合もあるはずだ。
[取材・文/西門香央里]
[取材協力]
※ 株式会社カオナビ・・・社員の個性・才能を発掘し、戦略人事を加速させるタレントマネジメントシステム〈カオナビ〉を提供。企業の人材情報をクラウド上で一元管理し、社員の顔や名前、経験、評価、スキル、才能などの人材情報を可視化して、戦略的な人材マネジメントの実現を支援している。