買い物も飛行機で!トンデモなく便利な空飛ぶクルマは万博デビュー?
近年、空飛ぶクルマや空飛ぶタクシーと呼ばれる移動体の製造が急ピッチで進んでいます。自社開発の1社とともに手掛けるのはエアライン、商社や自動車メーカーなどであり、海外企業と提携して商用運航を目指しています。空飛ぶクルマや空飛ぶタクシーは呼称であって正式名ではありません。管轄官庁の経済産業省が提唱する「次世代空モビリティ」が最新の名称になります。
日本では2025年大阪・関西万博の開催を機に運用が始まり、海外ではアーバン・エア・モビリティ(UAM)やイーブイトール(eVTOL)の名前で浸透しています。旅客人員輸送に使われる、新世代の移動体がパリエアショーでどのように取り上げられたのか現地で追ってみました。
機体の構造は3種あります
空飛ぶクルマの基本構造は、3種類。マルチコプター、リフト・クルーズ、ベクタースラストがあります。
マルチコプター
垂直方向を向いた複数のプロペラで離着陸と水平方向の巡航を行います。ヘリコプターの原理ですが、プロペラの数が多いのが特徴です。
リフト・クルーズ
離着陸用の垂直方向のプロペラと巡航用の翼とプロペラを持ち、マルチコプターと次に述べる推力偏向の中間的な特性を備えます。
ベクタースラスト
翼やプロペラを離着陸時は垂直方向、巡航時は水平方向に可変します。システムは複雑になりますが、巡行は高速で長距離飛行が可能です。
パリエアショーでのUAMの動き
パリエアショー会場には「パリエアモビリティ」と名付けられた特設会場が設置され、空とぶクルマを含めて航空宇宙分野のスタートアップ企業が集まりました。ここでは、「脱炭素化の課題に直面している航空輸送の新たな革命の核心に迫る」と宣言しており、1000㎡の展示場に81の企業が集まり展示、交易し議論を深めました。
日本のUAM
日本で唯一の空とぶクルマを自社で開発・製造する企業は名古屋のSkyDrive。ここで、同社の代表取締役CEOの福澤知浩氏が記者会見を行い、世界デビューを果たしました。会見の要旨は次の通りです。
1.機体仕様を変更し搭乗者定員はパイロットを入れて2人から3人に増えます。利便性が向上し航続距離は15㎞へと伸びます。
2.SKY DRIVE式SD-05型は、機体名を「SKY DRIVE」に変更し広く親しまれるものにしたい。
3.機体の製造にスズキの工場を使用する基本合意に達しました。子会社を設立し、スズキの工場を活用した機体の製造を行います。
4.大阪・関西万博での運航に向けて、2025年に耐空証明を取り、続いて2026年に型式証明を取得し量産の開始を目指します。
海外において日本企業の力強い発表を聞くと、親近感を抱くものです。日本で唯一の独自開発でもあり、順調な運航開始を楽しみにしたいと思います。
世界のUAM
ボロコプター
ドイツの「ボロコプター」は世界で最初に商用飛行を始めるのではないかと言われている本命のメーカーです。ボロはラテン語で「飛ぶ」と言う意味。エアショー会場で展示機体を前に本社広報に所属するシニアPRマネージャーの糸賀晶子さんは、「弊社はJALさんと提携しており、来年には型式証明を取得し、パリ五輪に合わせて欧州での商用飛行を実現します。続く2025年の大阪万博では商用飛行運航事業者4社のうち1社に選ばれており、順調に計画が進んでいます。」と話してくれました。
このボロコプターはパリエアショーで毎日午後に行われた飛行展示の開始時に飛んだ機体です。旅客機や戦闘機と同様に観客の前で飛行展示をしたのは初めてで唯一のUAMになり、順調な仕上がりを実際に見せることに成功しました。
アーチャー
読者にお勧めしたい、恰好良いUAMはアメリカの「アーチャー」でしょう。ユナイテッド航空はマンハッタンとニューアーク空港間で使用することで100機の購入を発表したことで有名になりました。機体名のミッドナイトは、漆黒のカラーが似合う洗練されたデザインに仕上がっています。
ボルトエアロ
駆動系が電動ではないのですが、日系企業が提携したUAMの1社ですので紹介します。ドイツの「ボルトエアロ」はパリエアショー会場で初披露したCASSIO330にカワサキモータースのエンジンを搭載する提携発表を行いました。カワサキモータースの伊藤 浩CEOは「安くて軽くてハイパワーなエンジンを異業種へ供給できないか模索しており、UAMにたどり着きました。ハイブリッドエンジンを搭載し、電動の機体とは一線を画す航続距離の長い航空機を目指します。」と話しました。
日本ではデビュー時期が決まったが
日本では、2025年大阪・関西万博で次世代空モビリティのデビューに併せて各社が動き出しました。諸外国では、それこそ玉石混交の競争で、早ければ2024年にパリオリンピック会場付近で商用飛行を目指す会社が出てきています。
今後の課題
機体の開発は各社ともに順調に進みますが、運航システムは統一されていません。当初は限定された特定地域での運用から始まり、以降は一つの空で多くの航空機が行きかう状況となり、安全性の確保が最大の関心事になります。この運航システムは早期に統一様式で運用が開始されることを期待しています。安全運航が約束された商用飛行の一番乗りはどの企業になるのか、世界が注目しています。
<取材・文/航空ジャーナリスト 北島幸司>