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「治療法のない難病」に侵された68歳男性。世界で初めての治療法とは

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難病ALSに培養上清治療の有効性

医療

 また、20年からアメリカのメイヨークリニックで始まった、ALSに対する脂肪由来幹細胞の投与の治験もあります。この治験では60人のALSの患者さんの髄腔内に3か月ごとに1回、1億個の幹細胞が投与され、12か月間で計4回の注入が行われます。

 本稿執筆時点では最終結果は出ていませんが、中間報告によれば、重篤(じゅうとく)な副作用はなく、ALSの進行を遅らせる効果がみられるものの、運動機能の改善には至っていません。

 この2つの臨床治験には共通点があります。骨髄由来と脂肪由来の間葉(かんよう)系幹細胞を使用していること、髄腔内に投与していること、そして幹細胞が放出する神経栄養因子を重視していることです。このことは、ALSに対する培養上清治療の可能性を強く示しています。

 髄腔内移植が行われているのは、血液脳脊髄液関門があるため、サイズの大きい幹細胞はこの関門を通過できないからです。それに対して、培養上清の主要な生理活性物質の大きさであれば関門を突破し、脊髄に到達することができます。私たちは、高濃度培養上清の大量かつ持続的な静脈内投与によるALSの治療を世界で初めて行いました。

ALSの症状が現れた68歳男性の事例

 私が2021年から行なっているALS患者さんへの臨床応用をご紹介します。患者さん(68歳・男性)は、2020年の1月頃に手足の筋肉の萎縮と運動障害を自覚して、近くの病院を受診しました

 担当医は精密検査の必要性を感じ、地域の基幹病院である横浜市の大学病院を紹介しました。同病院で、筋電図検査、MRI、呼吸機能検査など多方面からの検査を実施した結果、2020年4月にALSと診断されたのです。

 その後、患者さんはALSの拠点病院である北里大学病院神経内科に転院し、同年8月に胃ろうの手術を受け、慎重に経過が観察されていました。しかし、症状の進行は止まらず、ご家族が新しい治療法として培養上清による治療を希望されたため、2021年に私の提携病院に転院してきました。

改訂版・驚異の再生医療

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