コロナ禍にあえて海外渡航する人たちの本音「母親に泣きながら止められた」
母親が泣きながら「渡航しないでほしい」
物価が安くて住みやすく、英語を活かせる国で働きたいと思った野中さんは、経済発展が著しく、多民族国家で英語も使うマレーシアで仕事を探すことに決めた。
「海外求人が載っている『リーラコーエン』という採用エージェントを利用して転職活動をしました。語学力はTOEICのスコアが600点台ですが、クアラルンプールにある日本人向けの旅行会社に内定をもらうことができました。今は日本人からの求人が少ないため、邦人向けサービスを提供している企業は積極的に採用しているようでした」
しかし、海外就職は一筋縄ではいかなかった。マレーシアで働くことを地方に住む両親に伝えたところ、大反対されたのだ。母親には泣いて説得をされたという。20歳で結婚し、住んでいる地域からほとんど出たことのない母親にとって、コロナ禍で海外に行く息子の気持ちをどうしても理解できなかった。
「自分で言うのもなんですが、36歳で仕事を辞めて海外で働くというのは、かなり覚悟がいることです。生半可な気持ちではないことを何か月もかけて伝えたら、少しずつ理解してくれるようになりました。それに実は僕、1度コロナに感染しているんです。日本でどれだけ注意しても、感染してしまうリスクがあることを痛感しました。この事実を母に伝えて、時間をかけて説得したところ、今では賛成し、『いつかマレーシアへ遊びに行きたい』と楽しみにしているようでした」
「COCOA」のようなアプリのDLが義務に
2021年末に渡航した野中さんは、5日間の隔離機関を経て、1月13日より現地で法人営業として働いている。
「マレーシアに来て驚いたのが、コロナ対策が徹底されていることです。かなりしっかりしているので、思っていた以上に安心して生活や仕事ができています。
例えば、政府主導で開発された『MySejahtera』というアプリのダウンロードも義務付けられています。日本でいう新型コロナウイルス接触確認アプリ『COCOA』のようなもので、施設や建物に入るときに、MySejahteraを使ってQRコードでチェックインすることが求められます。
もしこのアプリを使わなかったり、アップデートをしていなかったりすると、施設に入れない可能性があります。また、マスクの着用が義務付けられており、国が定めたマスクの着用ルールに違反したら、罰金を科せられることがあります」
新型コロナウイルスの感染拡大から2年が経ち、諸外国では隔離の条件や入国時の審査も緩和し始めている。マレーシアでは4月1日より、入国制限を撤廃すると発表した。さらにはパンデミックだけでなく、ロシア・ウクライナ情勢など不安定な社会が続くが、それぞれの夢に向かって歩み出している。
<取材・文/橋本岬 編集/ヤナカリュウイチ(@ia_tqw)>