東大前殺傷事件、17歳犯人も陥った「努力して成功する」ファンタジーの危うさ
1月15日、大学入学共通テストの会場だった東大キャンパス前で起きた刺傷事件。2人の受験生と72歳の男性の3人を刃物で切りつけたとして、17歳の男子高校生が殺人未遂容疑で逮捕されました(註・2人の受験生への犯行は現行犯、72歳の男性については2月5日に再逮捕)。
猛勉強したのに成績が落ち始めて奇行が…
多くのメディアが、男子高校生の生い立ちや愛知県随一の超進学校での生活態度について報じました。とりわけ注目されたのが「東大理三」へのただならぬ執着。
「デイリー新潮」(20221月19日配信)によると、最高学府のなかでも最難関と呼ばれる医学部コースへの志望を公言して憚らなかったという男子高校生。自室では深夜までつぶやきながら勉強、学校の昼休みも弁当を食べながら勉強。心配した母親は「うちの息子は変わっているんですよ」と、周囲に語ったこともあるそう。
しかし、次第に成績が落ち始めると、言動が過激になっていったといいます。
生徒会への立候補演説では、どういうわけか大日本帝国云々を持ち出し、学校の記念祭に向けては、口ひげをたくわえて開催に反対する主張を繰り広げた少年。ある同級生は「右翼か左翼のアジテーションなのかはわかりませんが、過激な思想家のようになっていました」(「デイリー新潮」2022年1月25日配信)と振り返っていました。
このような犯行を犯すことまでは予期できなかったにせよ、猛勉強が男子高校生の人格を変えてしまった様子がうかがえます。
自分で自分を追い詰める
こういうケースでは、どうしても外からのプレッシャーを疑ってしまいがちです。ところが、この一件に関しては、両親、学校、クラスメートのいずれからも、不当に圧力を受けた様子がありません。両親は東大理三の合格を命じたことはなく、学校も過度に勉強を強いる校風でなかった。
彼自身が設定した高いハードルと、それに打ち勝っていくミッションに耐えきれなくなったと見るのが、現状では最も納得のいく説明なのでしょう。
そんな風に見ると、いかにも滑稽な独り相撲に映りますが、果たしてそれで片付けてもいいものなのでしょうか? 必要以上にエゴが増大してしまった原因は、本当に彼の中だけにしかないのでしょうか?