「父は私をラブホテルへ連れていった」複雑性PTSDに苦しむ女性の壮絶な“生い立ち”
発達障害や虐待に関する書籍を読み漁る日々
医師との面談を通して自分の過去を思い返し、整理する作業を重ねる一方で、井川さんは複雑性PTSDや発達障害、そして虐待に関連する書籍を読み漁った。それらの本の中では、親の間違った教育や虐待が子供の脳を変形させ、のちの人生にも大きな影を落とすということも知った。
「本を読めば読むほど、それまで自分が抱えてきた問題の全てに納得ができました。どこに行ってもパワハラやセクハラに遭いやすく、人間不信を募らせてきたこと。そのせいで被害妄想的になり、人間関係を壊しがちなこと。でも、理解が深まると同時に、今まで感じなかった感情にも苦しむようになりました」
自分の抱える生き辛さが過去の虐待に起因すると知ったことで、井川さんの中で両親への憎しみが日増しに大きくなっていったという。悩みに悩んだ末、ついに母親に自分の気持ちをぶつけた。
「私は母のことをずっと、自分と同じく父の暴力の被害者だと思っていたんです。だけど、過去の記憶が蘇るに連れて、母は自分が良い思いをするために虐待を見逃し続けていたことを思い出しました。母は被害者ではなくて、父と同じ加害者だったんです」
確立されていない治療法と高額な費用
井川さんの泣きながらの訴えに対し、母親は謝罪をすることはもちろん、共感するそぶりを見せることさえなかったという。さらに彼女を絶望させたのは、複雑性PTSDの治療法がいまだ確立されていないという事実だった。
「EMDR(眼球運動)やタッピング(体の一部を左右交互に叩いて刺激する)、漢方(神田橋処方)やTMS(磁気刺激治療)、それにポリヴェーガル理論(神経系へのアプローチ)など、複雑性PTSDに効果があるといわれる治療法もいくつかはあります。
実際、私の酷いフラッシュバックは漢方を飲むことでかなり改善しました。でも、漢方以外のほとんどの治療法は、保険が使えません。私も何度かカウンセリングやセラピーを試しましたが、高額のため続けられませんでした。
母とは何度も話し合いましたが、徒労に終わりました。私はただ、私の気持ちに寄り添ってほしかったんです。たとえ理解できなくても、理解しようとしてほしかった。でも母は、過去にこだわる私を責めました。それでやっと、両親と絶縁する覚悟が決まったんです」