ノンキャリア官僚だった「戦後最も偉大な総理大臣」が過ごした“ドサ回りの日々”
経済のことがわからない大蔵省官僚?
普通、キャリアは現場で捜査なんかしないのですが、杉下は左遷されたので、現場でノンキャリと一緒に捜査しているという設定です。ほとんどすべてのキャリア官僚の仕事は、「省内の調整」「他省庁との調整」「政治家との調整」「業界団体との調整」「法案の作成」です。現場の仕事なんか、キャリアはやりません。警察だと、キャリア官僚で殺人事件の捜査や逮捕ができる人なんか、いません。
大蔵省(財務省)でも状況は同じで、東京のエリート官僚は予算や税金や金融やマクロ経済のことなんかわかっていません。現日本銀行総裁の黒田東彦さんは「あの人は財務省出身なのに珍しくまっとうな経済学を修めている」と言われていたものですが、ということは他の人は推して知るべしでしょう。
もっとも大蔵官僚(財務官僚)の偉いところは、わかってもいない予算や税金や金融やマクロ経済のことを、立て板に水の如く滔々と解説できるので、さもわかっているかの如き幻想を振りまく才能にだけは溢れているところですが。
地方でのドサ回りで実力をつけていく
池田は左遷され出世が絶望的な状況で、現場のノンキャリアの中に入って、仕事を覚えました。池田が何をしたか? 地方の税務署員と一緒に飯を食い、酒を飲み、仕事を教えてもらいました。
単に書類の字ヅラと数字だけではない、生きた知識です。言葉や数字は眺めているだけでは意味が解りません。役所の文書には必ず行間に意味があります。凄腕刑事が何十年もその道一筋で覚える技術と知識があるように、税務署の職員にも同じように技術と知識があります。それを池田は、実地に覚えていったのです。
アパルトヘイト下の名誉白人が黒人と肩を組んで仕事をするかの如き光景です。他の「白人」は自宅に「黒人」を招いて食事をするなんてありませんが、「名誉白人」の池田は拘りませんでした。いつしか池田は「税のプロ」となっていきます。「大蔵省の杉下右京」と言えば、急にかっこよく思えてきました。