政府の“中小企業イジメ”が止まらない。日本企業の9割を襲う厳しい現実
支援なき賃金引き上げは中小企業を追い詰める
“中小企業の淘汰”とは、具体的にどのようなことを指すのだろうか。松尾氏によれば、以前話題になった“最低賃金引き上げ”もキーワードとなってくるらしい。
「先述した通り、消費税増税や不十分な補助金制度はもちろん、“最低賃金引き上げ”もアトキンソンさんが以前から主張してきたトピックです。最低賃金引き上げそれ自体は悪くないのですが、それに伴う企業に対する支援はあまり議論されていません。支援なき引き上げは、企業の人件費を圧迫するだけであり、体力のない中小企業を追い詰めることになります」
また、菅政権で新たに立ち上げた成長戦略会議の第6回会合にて、環境問題に寄与する経済活動を目指す“グリーンエコノミー”について議論した際、アトキンソンさんは“自発的に貢献する大企業”、“グリーンエコノミーに貢献するお金を持っていない中堅企業”、そして“グリーンエコノミーに貢献できない企業”の3つに分けたという。
「3つ目の“グリーンエコノミーに貢献できない企業”は明らかに中小零細企業を指しており、“グリーンエコノミーに貢献するお金を持っていない中堅企業”には支援をするけど、“グリーンエコノミーに貢献できない企業”に対しては規制を設ける、という旨の発言をしています。つまり、“環境に悪い企業”とレッテルを張り、環境問題さえも利用して中小企業淘汰の口実づくりをしているのです」
中小企業を外資の食い物にする
「最低賃金」や「環境改善」は国民の支持を獲得しそうな取り組みに思えるが、政府には一体どのような思惑があるのか。
「もしそうなら国がお金をかけて実現のための責任をもつはずです。また、最低賃金や環境改善だけでなく、中小企業淘汰のためにM&Aを促す法整備も進んでいます。M&A促進のための税制優遇措置を含んだ“産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案”が2021年6月施行されました。
また、2021年5月に可決された改正銀行法により、地域金融機関の合併や統合を支援する補助金を交付するほか、外銀・外資ファンドの参入障壁を下げ、銀行が地域の中小企業に100%出資することが可能になりました。その結果、地方の中小企業の経営権を銀行が奪って、短期的な利益目的のために、外資などに売り飛ばすリスクが想定されます。
買収された中小企業の従業員を一方的に非正規化・解雇したり、買収した企業の意向よって長年地域を支えてきた事業を切り捨てたりなど、その地域の失業率や貧困率を悪化させ、さらには文化的な魅力を脅かす恐れもM&Aは含んでいます。中小企業の後継者不足に伴う事業継承を問題視して、政府はその対策としてM&Aを挙げていますが、実際には中小企業を救うものとは程遠いものである危険があります」