実習不足の看護師が病院に…医療現場が懸念する2021年問題「リミットは3か月」
コロナ禍で揺れる医療現場が、この4月から「医療の2021年問題」とも言える新たな課題に直面している。それは1950年に看護師国家試験(当時は看護婦国家試験)制度が始まって以来初めて、臨地実習(看護実習)を経験せずに合格した看護師を迎え入れることになるからだ。
今年の新人看護師は「ゼロ年目」
3月26日に第110回看護師国家試験の合格発表が行われ、新たに5万9769人の看護師が誕生した。コロナ禍で人員不足に陥っている医療現場にとって期待の人材であることは間違いない。
その一方で、都内の大学病院で新人看護師の研修を担当する10年目の看護師・高浜祥子さん(仮名・31歳)は「実習不足が看護師としての力量にどの程度影響することになるのか、私たちも想像がつきません。コロナ禍のせいであって、本人のせいではありませんが、1年目の看護師ではなく、“ゼロ年目”だと思ってイチから指導するしかないと覚悟しています」と危機感を募らせている。
本来であればじっくり育てたいところだが、そうは言っていられない事情が差し迫っている。
「試用期間は看護要員に組み込みませんが、7月からは各病棟に本配属され、独り立ちして夜勤も担当するようになります。病院で容体が急変して亡くなる方の多くは、人員が少ない夜間です。医療の質が維持できるのか心配です。しかも、育成のリミットはわずか3か月。それまでコロナの第4波が押し寄せないことを願うしかありません」(高浜さん、以下同じ)
出身校によって格差が生まれる
看護師は人の命に関わる特殊な職業だ。そのため、看護師になるには看護専門学校や医科大学の看護学科などで3~4年間学び、最終学年の看護学生は医療機関で1000時間以上もの臨地実習を行う。実習では内科、外科、産科、小児科、精神科、介護施設などをローテーションで経験し、必要な知識と技能を身につけた上で看護師国家試験に臨むことになる。
しかし、2020年度は医療機関の多くがコロナ対応に追われ、看護学生の実習を受け入れられないケースが続出。そのため特例として、ペーパーペイシェント(実際の病例を基にした架空の患者)学習など座学も実習扱いとすることで、看護師国家試験を受験できる措置が取られた。
「今回の試験に合格した新卒看護師の中でも出身校によって“実習格差”が生まれています。自前で病院を持っていない大学の看護学科出身者の多くが、臨地実習を行えませんでした。
一方で、附属病院がある大学、看護専門学校出身者は、期間は縮小されましたが、附属病院が受け入れて実習が行われました。それでも例年の3分の1ほどの時間しか実習できず、コロナ感染拡大を避けるため、産科や介護施設等では受け入れることができませんでした」