異色の経歴の公務員が進める渋谷区「副業人材」募集。「国際的なスタートアップ都市に」
異色の経歴を持つ公務員が渋谷区へ
採用された場合、渋谷区と業務委託契約を結ぶことになるが、労働条件は柔軟に対応するという。
「勤務は原則テレワークですし、副業なので就業時間や報酬など、諸条件は個々にすり合わせて働きやすい環境を提供しようと考えています」
実は田坂氏は、生粋の公務員というわけではない。元々はサンフランシスコ日本総領事館で専門調査員として約9年勤務し、帰国後はベンチャー企業や小松製作所での勤務を経て2020年1月に渋谷区役所に入庁したという、異色の経歴の持ち主だ。
「総領事館時代には、日本から来た人を対象にシリコンバレー視察を組むことが多く、そこで視察に来た長谷部健渋谷区長と知り合ったんです。それが縁になって、帰国後に『渋谷区のスタートアップ事業に関わる人材を探している』と声をかけられたのが、渋谷区の仕事に携わるきっかけです」
各国が続々「シリコンバレーに続こう」
アメリカ在住時には世界一のスタートアップ拠点であるシリコンバレーを間近で見てきた田坂氏だけに、日本の現状を歯がゆく思うことがあるのだろうか。
「実は、シリコンバレーがあるカリフォルニア州の行政は、スタートアップをそこまで支援しているわけではないんです。それでもここまで発展してきたのは、シリコンバレーには失敗に寛容でチャレンジしやすいのスタートアップカルチャーがあったり、1年中穏やかな気候だったり、スタンフォード大学やカリフォルニア州立大学バークレー校など多くの大学があったり、複合的な要素がシリコンバレーに起業家や投資家を集めたのかと。
時代的な成功要因も強いので、正直に言うと、シリコンバレーを再現するのはムリだと思っています。それよりもむしろ、渋谷区が参考にすべきはシリコンバレーに続こうとしている世界の他都市の試みでしょう」
シリコンバレーが一人勝ちのままでは自分の国の産業が全部食われてしまう――そんな思いから、世界ではさまざまな都市がスタートアップ支援に力を入れている。「各国がうっている対策が渋谷にとって参考事例になる」と、田坂氏は続ける。
「シリコンバレーに対抗するため、ほかの国や地域では官庁が関わって成功しているケースが多く、同じような環境整備を渋谷区でもできればと考えています。たとえばシンガポールでは投資金額の最大70%をシンガポール側が持つ仕組みがあったり、キャピタルゲインを非課税にして外国人投資家を呼んだりしています。その他、アイルランドの『エンタープライズアイルランド』や、スウェーデンの『インベストストックホルム』などのように、自分の地域に人を呼ぶための機関をつくるといった具合です」