松下幸之助、ジョージ・ルーカス…なぜか成功者に共通する考え方
「火中の栗を拾う」という言葉があります。他人の利益のためにあえて危険を犯して、ひどい目にあう、という意味です。いくら“栗”といううま味があったとしても、火の中に手を伸ばすことは躊躇するでしょう。つまり、その“栗”は、誰も拾わない(拾えない)という意味です。
何も素手で拾うことはありません。ヤケドしないように、火を消してから拾ってもいいし、長いトングを使えばいいのです。「できない」ではなく「どうしたらできるのか」という方法を見つけるだけです。
今回はラテラルシンキング(水平思考)の専門家で株式会社創客営業研究所代表取締役・木村尚義氏に不利な状況でも、視点を変えると有利に変えることができる「ずるい考え方」を紹介してもらいます。
※本記事は『まんがで身につく ずるい考え方』(あさ出版)から再編集し、抜粋しました。
松下幸之助:自信があるからこその大勝負
1923年(大正12年)の日本では、まだまだ自動車は高価で普及しておらず、庶民の主な交通手段といえば自転車でした。当時は、現在のように道も舗装されていなければ、明るい街灯もほとんどありません。
真っ暗な夜、道にできた轍(わだち)やでこぼこ穴で転ばないよう、自転車ライトが不可欠だというのに、当時の自転車用の灯火はローソクか石油ランプがほとんどで、風が吹くと消えてしまうという代物でした。電池式のものもあったのですが、2~3時間しかもたないうえに故障も多く、人々は困っていました。
総合電機メーカー・パナソニック(ナショナル)の創業者、松下幸之助は、電池式の砲弾型ランプを開発しました。30~40時間ほど点灯し続ける優れものです。ところが、これまでの電池式ランプのイメージが悪すぎました。取り扱ってくれる問屋がないのです。
そこで、幸之助は視点を変え、直接小売店に話をして無料サンプルを置いてもらうことにしました。実際にランプが30時間灯ると知ってもらうことで、今までにない良品ということが証明されると考えたわけです。今日でいう、デモ販売です。さらに、ある程度の反響が必要だと、1万個バラ撒く覚悟を決めます。
電池会社も相当な覚悟だったはず
しかし、予算を考えると電池の準備ができない。電気が点けられないと意味がありません。幸之助は、電池の無償提供を電池会社にお願いすることにしました。電池会社も話を聞いて驚いたことでしょう。
売れなかったらすべて買い取るという申し出とはいえ、松下電器が倒産してしまえば約束どころではないのですから。にもかかわらず引き受けた電池会社は相当な覚悟をしたはずです。
この決断が、「火中の栗を拾う」です。周囲の同業者からは、なにをバカなことをやっているんだと、電池の提供を決めた会社は思われたことでしょう。それでも、「本当にこの商品は使えるのか?」と火中の栗を見極め、サンプル提供という拾い方で飛び込んだのです。結果として、このデモ販売作戦はうまくいき、ライトは爆発的に売れました。思い切って電池を提供したメーカーも収益をしっかり上げることができました。
この作戦は一見すると、失敗したら倒産は免れないので不可逆的ですが、もっと長い目で見ると、たとえ倒産しても良い商品を次々と世に出せば、すぐに立て直せる。そうした幸之助の自信からすれば可逆的だということなのでしょう。