在宅勤務で会社に「定期代を返せ」と言われた…返金する義務はある?
緊急事態宣言が5月末まで延長され、休業による自宅待機やテレワークが延長された人も多いのではないでしょうか。
そんな中で、読者からこんな問い合わせがありました。在宅ワークが長期化の影響によって、Aさんの会社では3月に支給した6か月分の定期代を「今後、給与から天引きするかもしれない」というメールが送られたそうです。
Aさんはすでに6か月分の定期券は購入している状態です。この場合はどうすればいいのでしょうか。似たような事態に直面する人も今後増えるかもしれません。今回も弁護士で公認会計士の資格を持つ後藤亜由夢先生に話を聞きました。
定期代を支払うかは、法律で決められてはいない
「まず、会社は、必ずしも定期代金を支払う義務はありません」
多くの会社で当たり前のように支払われている定期代ですが、まず定期代の存在について後藤先生からは意外な答えが返ってきました。そしてこれは定期代の法的位置づけによるようです。
「会社が支給する定期代は法的には通勤手当といい、あくまで雇用契約又は就業規則において会社と従業員の任意の合意にしたがって支払われる『賃金』という扱いです」
つまり、定期代支払いは「会社が任意に決めること」なんですね。
「もっとも、ほとんどの会社では、従業員に対する福利厚生等の一環として、会社が従業員に対し通勤手当を支払うのが一般的となっています。しかし、繰り返しになりますが、会社が通勤手当を支払うべき法律上の義務はありません。あくまで会社と従業員の任意の合意により支払っているものです」
在宅ワークでも、定期代を返す義務はない
支払い義務はないけれど福利厚生として広く浸透している、というのが現在の定期代の立ち位置と言えそうです。そして福利厚生としてすでに導入されている場合は、支払い義務がないからとすぐに廃止はできないそうです。
「いったん会社と従業員の任意の合意がなされると、通勤手当を廃止することは“不利益な労働条件の変更”になります。そのため、通勤手当を廃止するには従業員の合意又は就業規則の改訂が必要です。従業員の合意、または就業規則の改訂なく、会社が一方的に通勤手当を廃止するのは違法です」
では、冒頭の質問のように、在宅ワーク中の定期代を給与から天引き(相殺)するのは違法?
「従業員に対する給料は、所得税や社会保険等の法律で認められたもの以外には、会社は原則として天引きや相殺をすることはできません。これを『全額払いの原則』といいます。例外的に、あらかじめ労使協定により定めておけば給与から天引きができ、従業員との明確な合意がある場合には、給与から相殺をすることができます」
つまり、事前にルールが決まっている場合以外は、「在宅だから定期代を返せ」と言われても従う義務はないわけです。