電通時代に学んだ「したたかな交渉術」31歳“ベンチャー・パン屋さん”が語る
「パンから広がるコミュニケーション」を合言葉に、企業向けのパンのサブスクリプションサービス「オフィス パンスク」を中心に展開しているベンチャー企業「パンフォーユー」。『がっちりマンデー』(TBS)、『おはよう日本』(NHK)などでも取り上げられるなど話題だ。
その特徴は、独自の技術でパンを冷凍し、焼き立ての食感と香りを全部閉じ込めることに成功したこと。レンジで30秒ほど温めることで、いつでも焼き立て同等のクオリティのパンが食べられるとして、取引先に向かう前の営業マンやお昼過ぎにちょっと小腹がすいたデスクワーカーなど、オフィスでのさまざまな場面で活用されている。
社長は大手広告代理店、電通の出身である矢野健太氏(31)。本社を地元の群馬県桐生市に置き、地方から「多くの魅力的なベーカリーの美味しいパンを多くの人に届けたい」と事業を展開している。
なぜ安定している大手企業から先の見えない起業の道を選んだのか。そして物流も情報も東京中心の今、地方を舞台に事業を展開しているのか話を聞いた。
業界1位の電通に入社した理由
――新卒で入社されたのは大手広告代理店の電通でした。決め手は何だったのでしょうか?
矢野健太(以下、矢野):僕は就職活動をする際に3つの軸を定めていました。1つは自分のアイデアを形にすることができる企業であること、2つ目が業界No.1企業であること、そして3つ目が初任給がよいということでした。この3点に焦点を当てて活動し、内定をいただいた形になります。
――電通は広告代理店の中で「業界の1位」です。この点にこだわった理由を教えてください。
矢野:大学時代にアメフト部に所属していたのですが、先輩から「業界の1位と2位では仕事の差配が全然違う。絶対に業界の1位を狙え」と就職活動へのアドバイスをもらっていたんです。当時、僕も日本一を掲げるアメフト部にいたので、確かにマインドセットがだいぶ違うという実感はありました。そのような経験もあり、業界1位の会社に絞って就職活動に励みました。
そして入社の決め手は、日本の広告業界No.1の企業ですので自分のアイデアが世に出るときに間口がすごく広いと思ったんですね。それと、いろいろなクライアントさんやメディアさんとタッグを組んでいる印象があり、どの部署に配属されても楽しそうなイメージもあったからです。
3年で名古屋の交通広告を全部把握
――そのような志を抱いて入社されたわけですが、どのような仕事を担当されてのでしょうか?
矢野:電通には本社、関西支社、中部支社とあるのですが、僕は第一志望の中部支社に希望通り配属されました。中部支社を選んだのは、幅広くいろいろな案件を取り扱えると考えたからです。
その中で、僕は中部OOH(アウトオブホームメディア=屋外広告)という部署で、具体的には電車や駅の広告媒体を取り扱っていました。東京本社や関西支社のクライアントさんが名古屋の鉄道広告に出稿する際の窓口となり、名古屋に出稿する際は全て僕がさばいていましてね。
もうひとつの大きな仕事は、中部支社のクライアントさんが全国向けに鉄道広告を使ったプロモーションをする際の設計や企画をしていました。ここで丸3年働く中で名古屋の交通広告を全部把握し、その周辺のOOH媒体という4マス(新聞、雑誌、ラジオ、テレビの4つのマスコミ媒体)とウェブ以外の媒体は、全て取り扱えるようにはなりましたね。