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コーヒーを沖縄の特産品に!産学官連携で取り組むネスレ日本の狙いとは?

コーヒーを沖縄の特産品に!産学官連携で取り組むネスレ日本の狙いとは?

ネスカフェ 原宿で2025年9月25日(木)、「めんそーれ原宿!沖縄コーヒーフェス supported by NESCAFÉ」が期間限定でスタートした。10月19日(日)までの開催。

これは、「ネスカフェ 沖縄コーヒープロジェクト」および沖縄県内でのコーヒー栽培の取り組みを広く発信するための産地直送・体験型カフェで、沖縄コーヒーに関する展示のほか、沖縄県産のコーヒーや黒糖を使ったスイーツの提供も行われる。本記事では、「ネスカフェ 沖縄コーヒープロジェクト」の趣旨や、沖縄でのコーヒー栽培の現状について紹介する。

「めんそーれ原宿!沖縄コーヒーフェス supported by NESCAFÉ」イメージビジュアル

ネスレ日本はなぜ沖縄コーヒーへ注力するのか

ネスレ日本株式会社・深谷龍彦CEO
ネスレ日本株式会社・深谷龍彦CEO

そもそも、国産コーヒーに注力するのはなぜか。ネスレ日本株式会社の深谷龍彦CEOがその理由を語る。

『ネスカフェ 沖縄コーヒープロジェクト』とは、コーヒーを沖縄の特産品にすることを目指す産学官連携プロジェクトで、2019年から活動している。なぜ沖縄で、なぜコーヒーなのか。

北緯25度、南緯25度に“コーヒーベルト”と呼ばれる一帯がある。コーヒー栽培の盛んな産地はこの中に収まっている。だが、今の地球は気候変動によって赤道に近い地帯の記憶がどんどん上がっており、コーヒーが採れなくなるかもしれない「コーヒー2050年問題」が存在する。あるデータでは、収穫量は半分になる可能性も予測されている。

この問題を解決する方法はいくつかある。「暑さに強い苗木を品種改良で生み出す」、「より高地へ栽培地を変える」など、いろいろだ。そのうちのひとつが「25度の外でもコーヒーの産地を広げる」である。

亜熱帯である沖縄は北緯24度から北緯28度なので、このコーヒーベルトのギリギリの位置にあたる。それゆえにチャレンジする土地として適していると考えたのだ。

それに加えて、沖縄が抱える問題に着目した。農業従事者の高齢化と後継者不在問題の影響で、耕作放棄地が増え続けている。さらに、昨今の輸送コストが上がっている。沖縄で作ったものを本州で売ろうとすれば、どうしても、値段を高くしなければならない。

沖縄の特産品といえば、ゴーヤやパイナップル、マンゴーなどだ。しかし、どれも需要は限りがある。だが、コーヒーならば、本州にも大きな需要があり、捌き切れる可能性が見えるのだ。

こうした理由から、「コーヒー2050年問題」と「沖縄が抱える問題」を解決できる一手として、ネスレ日本は沖縄コーヒーに注力しているのである。

地域との連携で取り組む沖縄コーヒーの難易度は高い

ネスレ日本だけでは、到底解決できない大きな課題だ。プロジェクトを立ち上げた沖縄SV(エス・ファウ)とともに、名護市やうるま市、琉球大学、そして協力農家が参画メンバーとして協力して、課題に取り組んでいく。名護市やうるま市は農地の紹介や調整、琉球大学からは農学的見地からコーヒー栽培に必要なノウハウや情報の提供といった具合だ。

『ネスカフェ 沖縄コーヒープロジェクト』は、沖縄本島だけでなく、石垣島や宮古島など離島にも広がっている。

しかし、沖縄でのコーヒー栽培の難易度は高い。そもそも、台風の通り道であり、沿岸部であれば塩を含んだ雨が降ってしまう。夏はアラビカ種にとって暑すぎて、冬は逆に寒すぎる。まずは、沖縄の土壌に合う苗木の品種を探し当て、それが存在しないならば品種改良で作り上げる必要がある。だが現状では、適応したコーヒー豆があるかどうかはまったくわかっていない状況だ。

そのために毎年、様々な苗木を植えて試行錯誤を繰り返している。種から生育するのはわかっても、花が咲いて実がなればどうなるかは、またそこで調べる必要がある。まさに果てしない作業だ。

沖縄常駐の農学者が解説する「ネスカフェ プラン」

ネスレ日本株式会社 生産本部 製造サービス部・一色康平氏
ネスレ日本株式会社 生産本部 製造サービス部・一色康平氏

沖縄に常駐する農学者であり、ネスレ日本株式会社 生産本部 製造サービス部である一色康平さんが「ネスカフェ プラン」について語った。「ネスカフェ プラン」とは、ネスレが2010年からはじめているグローバルな取り組みで、全世界の小規模な生産者に支援を行っている。基本的に良質な苗木の提供などをしており、地球環境に配慮し、人権にも配慮した上でのコーヒーの調達を目指すものである。

そのコアにある考え方が「再生農業」。土壌に着目して、土壌の健全性を維持することを目指したものである。また、コーヒー以外の作物を同時に栽培することで、環境がコーヒーに適さない場合でも、他の作物から現金収入を得られる。そういった取り組みのことだ。

『ネスカフェ 沖縄コーヒープロジェクト』とサッカー選手のセカンドキャリア

沖縄SV株式会社・髙原直泰CEOとネスレ日本株式会社・深谷龍彦CEO
沖縄SV株式会社・髙原直泰CEO(左)とネスレ日本株式会社・深谷龍彦CEO

10年前に沖縄にスポーツクラブである沖縄SV株式会社を立ち上げた元サッカー日本代表の髙原直泰CEO。単純にそのサッカーチームでリーグを目指すだけでは沖縄にいる意味がないので、どう恩恵を返すべきかと考えた。そして、スポーツ以外の部分で、農業にも取り組んでいくことにした。

当初は、コーヒーを育てようとしたわけではなく、選手たちとニンジンの間引きや収穫を手伝ったり、耕作放棄地を切り開いたりしながら、沖縄の第一次産業の課題と向き合っていた。そんな中でスポーツを生業としている沖縄SVで解決する手立てはないものか、と考えていた。

課題を解決しながらも、沖縄SVにとって、将来的にしっかりと利益になる必要がある。選手のセカンドキャリアのきっかけになるような取り組みにすることを目指した。

さまざまな農家と関わる中で、「沖縄でコーヒーが作られている」と知り、特産物にできたら面白いと感じた。しかも、それを作ったのがスポーツを生業としている沖縄SVなら、「スポーツに関わることで新たなものを生み出せるじゃないか」と思われるようになるのではないか、との狙いもあったという。まさに「スポーツを通した地域創生」だ。

それを実現させるために、ネスレ日本にほぼ飛び込みのかたちで連絡をし、そこからプロジェクトがスタート。髙原CEOはジュビロ磐田で活躍していた時代があり、そのころからネスレ日本とは縁があったのも大きい。

髙原直泰CEOと農家が取り組む栽培のリアル

実際にコーヒー栽培を従事する人にとって、難しいとされるコーヒー栽培は特にどのような課題があるのだろうか。

沖縄SV株式会社・高原直泰CEO

沖縄SVの髙原CEOは「コーヒー栽培とは雑草との戦い」と例えた。また、あっという間に伸びていく雑草だけでなく、バッタに新芽も食べられてしまう。コーヒーの木自体というより、その周辺環境を整えるのが大変だという。

今の取り扱っているのは耕作放棄ハウスであり、ハウス自体の補修も並行して行っているので、やることも多い。だが楽しくやらせてもらってはいるのだそうだ。

又吉コーヒー園・又吉拓之さん

又吉拓之さんが経営する又吉コーヒー園は、その名の通り、コーヒー農園ではなくコーヒー園である。それは、宿泊施設の運営や園内のアクティビティなど総合的で多角的な事業の一環としてコーヒー栽培にも着手していることから、そう名乗っている。

それでもコーヒー栽培が片手間ということはなく、栽培本数は2,000本を超える。ネスレ日本からの提供を受けて、「沖縄の気候に合う苗はなにか」を一緒に研究している。研究している苗は7品種。現状は、味はどうなのかも含めた検証段階に入っている。なお、又吉農園でも雑草との戦いは厳しいものがあるという。

ただ、生産したコーヒーを提供した客の喜びの顔がやりがいになっているそうだ。

又吉コーヒー園

又吉さんは、「やんばる COFFEE FESTIVAL」の旗振り役でもある。このイベントでは沖縄北部らしさを出すために、沖縄コーヒーの10検体と徳之島の2検体の品質評価会を実施した。いまの沖縄コーヒーはどのような出来なのかを注目させる目的があり、さらなる向上を目指した。

行政にコーヒー栽培は農業として認められていないので、農薬の使用も認められていない。これはコーヒー栽培をする上で、大きな課題だ。また、沖縄はやはり台風の通り道であり、その被害もやはり大きいという。

台湾のコーヒー豆に虫や疫病が出ている。だが沖縄コーヒーはそれへの対策をすることができない状況にあり、由々しき問題だ。又吉さんは村に要請を出し、それを村から県へ、県から国へと伝わっていくことを見越して行動している。

合同会社宮平農園・宮平翼さん

宮平翼さんの経営する合同会社宮平農園は、祖父の代から続く農園であり、50〜60年、農業に従事している。コーヒー栽培に関しては、2021年に別のコーヒー農園の方から声がかかったことがきっかけで開始した。

最初はマンゴーハウスの合間に20本を植えたことから始まったのだが、いまでは350本のコーヒーの苗を育てているという。

宮平農園のある場所は沖縄の南部で、海抜は3mもなく、海も近いので台風の影響も受けやすい。コーヒー栽培をするには、かなり過酷な環境である。しかし丁寧な管理によって成功しているのだ。

コーヒーの木

沖縄南部は北部よりも気温が12℃も違う。北部よりも収穫の時期が早い。1月の前半には開花し、8月中旬にはもう収穫がスタートした。手作業での収穫を頑張っているのだという。そして、いかに加工するのかを模索している最中だとのこと。

農業に従事してきたことで身についた知識や技術が活かせる場面は多い。沖縄コーヒーは北部が多く、南部では失敗することも多い。自身のノウハウを伝えて南部でも沖縄コーヒーを盛り上げたい、と考えているそうだ。

日本の消費者に「沖縄コーヒー」をどう広めるか

沖縄コーヒープロジェクトについて語るネスレ日本株式会社・深谷龍彦CEO

第1ステップとしては、まず沖縄で栽培できるコーヒー豆の苗木を見つけ出すか、あるいは、作り出すことだ。次に第2ステップは、コーヒー豆の収穫体験。本州の人間に沖縄に来てもらう。

そして、第3ステップでは、収穫体験のイベントを確立しながら、沖縄県に来たときのお土産として、沖縄コーヒーが認識されるようになることを目指す。そして、最終的に、沖縄コーヒーが日本国中に流通することが目的である。

このプロジェクトが開始してまだ6年半。20年、30年、50年かかると考えている長期的なプロジェクトである。深谷CEO は、50年たっても工場の生産に乗せるのは間に合わないかもしれないが、そこからも続けていくつもりだという。

また、沖縄のコーヒーは11月から4月や5月まで収穫ができる。その時期の長さはコーヒーとしてはとても珍しい。深谷CEOは、長くゆっくりと育っていくことが、沖縄コーヒーの味の特徴に乗ることへの期待も語った。

沖縄から広がる新しいコーヒー文化

沖縄コーヒーへの思いを語るネスレ日本株式会社・深谷龍彦CEO

沖縄コーヒーが根付くことを目指す髙原CEO、さらに大規模な沖縄コーヒー品評会や世界的なブランドにしたい又吉さん、南部の沖縄コーヒーや他の農産物を盛り上げたい宮平さん。その思いを受けて、深谷CEOも思わず笑顔。

そして、深谷CEOは「実はネスレが一番高く買っていないのなら売らなくてもいい」と農家に伝えていることを語る。目指すのは沖縄にコーヒーという生産物を根付かせること。今後も、どんどんその規模を拡大していきたいと意気込んだ。

また、次世代の人に「コーヒー栽培はお金が稼げる」と思ってもらえるようになることが大切、という想いも語った。学校にコーヒーを作るカリキュラムを作ることも目指しており、若い世代に継がれる仕組みづくりも模索していくという。

ブレンドコーヒーやHY考案スイーツを試飲・試食

「又吉コーヒーブレンド」と「黒糖とパイナップルのムース」
「又吉コーヒーブレンド」と「黒糖とパイナップルのムース」

「めんそーれ原宿!沖縄コーヒーフェス supported by NESCAFÉ」では、沖縄コーヒーや沖縄スイーツを楽しむことができる。今回、「又吉コーヒーブレンド」と「黒糖とパイナップルのムース」を実食した。

「又吉コーヒーブレンド」は又吉コーヒー園で収穫したコーヒー豆を約20%使用した特製ブレンドだ。味わいはすっきりとしたもので、香りも芳醇。普段から口にするコーヒーとなんら遜色ない味わいで、薄いわけでもなかった。カップは沖縄の陶器である「やちむん」で楽しめる。

「黒糖とパイナップルのムース」は、『ネスカフェ 沖縄コーヒープロジェクト』オフィシャルサポーターであるアーティストのHYが考案したスイーツ。沖縄県産の黒糖を使った、パイナップルの果肉たっぷりでほどよい甘さがうれしいムースだ。こちらの器も「やちむん」である。

「めんそーれ原宿!沖縄コーヒーフェス supported by NESCAFÉ」店内

「めんそーれ原宿!沖縄コーヒーフェス supported by NESCAFÉ」期間中は、沖縄コーヒーをより深く知ることができるブースもある。沖縄コーヒーが気になった方は実際に足を運んでみるのもよさそうだ。

ネスカフェ 原宿
住所:東京都渋谷区神宮前1-22-8
営業時間:11:00~20:00(ラストオーダー19:00)
定休日:なし
食べログ:https://tabelog.com/tokyo/A1306/A130601/13117460/

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