【独占インタビュー】粗品が明かす“二刀流”の戦略思考――笑いと音楽を越境する力

芸人であり音楽活動も精力的に展開する粗品さんが2025年9月6日、2026年4月に開校する「VANTAN ミュージックアカデミー」(東京・大阪)への入学を考える若者たちへ向けて、特別授業を行いました。自身の音楽制作や音楽業界で生き抜いていく方法について熱く語った粗品さんに、音楽的発想の原点や笑いと音楽を横断するクリエイティブ戦略について話を聞きました。
若い世代との出会いがもたらす刺激

――今回、入学を検討する10代の受講者を前に特別授業を行ってみて、どのような刺激がありましたか?
粗品:めっちゃありましたね。10代って、僕自身が芸能やお笑い、音楽に興味を持ち始めた時期でもあったので、まさに“これからの人たち”じゃないですか。夢と希望に満ちていて、ワクワクしながら話を聞いてくれる表情を見るだけでうれしかったです。最後の質問コーナーでも積極的に手を挙げてくれて、一人ひとりともっと話したいと思いました。自分もあの頃の気持ちを忘れずにいたいと、改めて思わされましたね。
笑いと音楽に通底する「心を動かす」戦略
――お笑いと音楽に共通する発想や戦略的思考はありますか?
粗品:やっぱり「人の心を動かせるかどうか」がすべてだと思います。そのためのコツはお笑いで培った経験にあって、それを音楽にも活かしているつもりです。ただ、お笑いには「M-1グランプリ」みたいなわかりやすい勝負の場があるけど、音楽にはそういうシステムが少ない。どうしたら、もっと多くの人に聴いていただけるか、日々模索しています。
――SNS戦略についてもかなり研究されているようですね。
粗品:今の無名アーティストにとってはTikTokでバズるのが王道ですが、なかなか難しいですね。特に僕の場合は芸人としての立場が逆にハードルになることもある。芸人・粗品がやっている音楽だからこそ、やってはいけないこともありますし。タイアップのチャンスをいただいたこともありましたが、ものすごく売れたかといわれるとそれほどでもない。だから、TikTok以外でも頑張っていかないといけないなと、かなりもがいています。
ブランディングとチームワーク

――世間の期待に応えつつ、自分のブランドを守るために意識していることは?
粗品:あんまり筋の通らないことは言わんとこうっていうのは意識してますね。アンチの人には「前と言ってることが違う」と言われることもあるけど、よく紐解いてみると一度も矛盾したことはないという自負があるんです。説明できる筋を通すこと、それをブランディングの基本として大切にしています。
――音楽は多くの場合チームで作られます。チームワークで大切にしていることはありますか?
粗品:まずは相手の意見を尊重することですね。お笑いでも相方のアイデアを「とりあえずやってみよう」と受け入れる習慣がありました。それが音楽にも生きていて、チームのメンバーが提案したものも一度試してみる。自分の音楽プロジェクトにおいて最終決定権は自分にあるけど、相手の解釈を飲み込む柔軟さは持っています。意見が食い違った場合は、相手を尊重しつつも「めっちゃええねんけど、申し訳ないけど、俺のわがまま言わせてくれ」と、いい感じに自我を貫きます。人を嫌な気にさせない駆け引きが大事です。
――音楽制作で壁にぶつかったときは、どのように突破していますか?
粗品:行き詰まったり嫌なことがあったりしたら、とにかく寝るんですよ。起きてみると気持ちがリセットされて、新しい気持ちで頑張れる。自分にとってのライフハックです。
AI時代に差を生む「言葉」の力と自分らしい音楽
――AIやSNS全盛の時代に、アーティストが生き残るために重要なことは何でしょうか?
粗品:AIが作る曲もすごいですが、差を生むのは「言葉」だと思います。メロディーや伴奏はAIでもかなり良いものが出せますが、この節にどの言葉を当てるかはアーティストのセンスに依存する。そこに人間らしさや心が宿るんです。ただ、聴く側が「AIでいいやん」と思ってしまうと厳しい時代なんかなと思います。だからリスナーも含めた音楽の在り方が問われている気がしますね。
――最後に、今後挑戦したいことや野望について教えてください。
粗品:「自分らしい音楽」を作ることが最大の目標です。一見簡単そうですが、何をやっても「誰かっぽい」と言われるのが音楽の世界。その中で“粗品だからできる音楽”“粗品だから説得力がある音楽”を形にしていきたいと思っています。
笑いと音楽という異なるフィールドを越境しながら、自分の突破力を磨き続ける粗品さん。彼の挑戦は、これから音楽を志す若い世代にとっても、大きなヒントとなりそうです。