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中国のキャッシュレス普及率が高い意外な理由【現金にまつわる習慣の日本との違い】

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中国のキャッシュレス普及率が高い意外な理由【現金にまつわる習慣の日本との違い】

キャッシュレス決済が支払い手段のひとつとして定着しつつあり、現金に触れる機会が減った人もいるのではないでしょうか。中国では、日本よりも早い2010年代から、WeChat Pay(ウィーチャットペイ)やAlipay(アリペイ)を中心としたモバイル決済が社会に深く浸透しています。その背景には、現金に対する捉え方の違いがありました。この記事では、中国ならではの現金に対するイメージや、キャッシュレス社会においても現金を使う場面について紹介します。

中国のキャッシュレス決済比率は83.5%

中国のキャッシュレス決済
©️Tada Images / Shutterstock.com

日本でもクレジットカード決済やモバイル決済などが普及して久しく、特に若年層を中心に日常的な小額決済でもキャッシュレス化が進んでいます。

しかし、日本での普及に先駆けて、中国ではキャッシュレス決済が社会に深く根付いていました。中国では2004年にAlipayが、2013年にWeChat Payがサービスを開始し、2010年代後半には爆発的に普及しました。

一般社団法人キャッシュレス推進協議会が実施した2022年の世界主要国におけるキャッシュレス決済比率の調査によると、中国は83.5%という高い比率を示しています。一方、日本は36.0%。この数字からも、中国でキャッシュレス決済がいかに浸透しているのかがわかります。

中国でキャッシュレス決済が普及した背景のひとつには、現金に対する信用の低さが挙げられます。

日本では、買い物や飲食店で支払いをする際、店員は受け取った現金を確認してレジに入れますよね。いちいち透かしがあるかどうかなんて確認しません。

ところが中国では、ニセ札の流通が比較的多く、問題になっています。日本ではニセ札が発見されようものなら、ニュースにもなりそうな事件として扱われますが、中国ではいまだにニセ札が混じっていることがあります。

このような背景から、AlipayやWeChat Payが提供する安全で手軽な電子決済のほうが好まれ、スマートフォンの普及と併せて、急速な普及につながったといわれています。

紙幣はニセ札を判別する機械に通される

中国の100元紙幣
中国の100元紙幣

中国では、銀行や役所の手続きなどで現金を渡すと、まず偽札判別機に通されます。現金を数えると同時に本物かどうかが判別されます。小売店や飲食店では、そのまま受け取られることもありますが、家電量販店など金額の大きい買い物をする店舗でも見かけます。

筆者が以前勤務していた職場でも、事務スタッフが現金計数機で確認作業を行う中で、偽札が発見されたことが何度かありました。見せてもらうと、透かしが入っておらず紙質も少し違いました。

また、在中国日本大使館のホームページでも、偽札に関連する具体的なトラブル事例が紹介されています。例えば、タクシーで支払いの際に100元札を渡すと、運転手が偽の100元札にすり替えて「これはニセ札なので、別の紙幣を出すように」と要求するような詐欺被害も報告されています。

お金を贈るときは「4」がつく金額を避ける

紅包
紅包

ニセ札が流通しているとはいえ、当たり前といえば当たり前ですが、本物の紙幣であれば金額通りの価値があります。キャッシュレス決済が主流になっても、現金が完全に姿を消したわけではありません。飲食店や屋台などで、高齢者が現金で払っている様子を何度か見かけたことがあります。

また、「紅包(ホンバオ)」と呼ばれる、春節の前に封筒にお金を入れて渡す習慣は、現在でも現金が主流です。日本でいうお年玉に近い風習ですが、中国ならではの特徴やルールがあります。

日本のお年玉だと、さまざまなデザインのポチ袋がありますが、紅包は専用の赤色の封筒に現金を包みます。中国において赤色は、活力・幸福・幸運を象徴します。相手に、より多くの幸福と祝福を与える意味をこめて、お金を赤い封筒に入れるのです。

また、紅包は子どもだけでなく、両親や祖父母、会社の同僚、従業員など、幅広い人々に贈られます。親や祖父母から子や孫へ、上司から部下へというように、目上の立場の人が贈ることが一般的ですが、健康長寿を願って親や祖父母に渡す場合もありますし、友人同士で気軽に贈り合うこともあるそうです。

入れるお金についても、必ず新札を使用する、コインは使用しない、「4」のつく金額は避ける(中国語で「4」は「死」に似た発音のため)といった避けるべき決まりがあります

以前の職場では、春節が近づくと事務のスタッフから「紅包用に新札両替をしますよ」といったアナウンスがありました。日常的にお世話になっている警備員や建物の整備士の方々へ紅包を渡す同僚や上司もいたからです。

ニセ札にまつわるトラブルの種でもあるけれど、中国ならではの縁起の良い風習にも顔を出す現金。実は、キャッシュレス決済の普及に伴い、紅包もデジタルで送り合うことができるようになっています。文化や風習もデジタルに置き換わるのか、それとも現金は使われ続けるのか。お金の未来の姿が、中国で垣間見えるかもしれません。

【参考】
中国での偽札に関するQ&A|在中国日本大使館
2022年の世界主要国におけるキャッシュレス決済比率を算出しました|一般社団法人キャッシュレス推進協議会

奄美大島出身。大阪府在住のライター。 タイと中国の日本人学校に教員として通算8年間勤務。 帰国後、フリーのライターへ。 補習校講師として、オンラインで国語を教えています。

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