運をコントロールする生き方とは?ドン・キホーテ創業者が語る「勝つ条件」
ライフワークとしてブックレビューを長年執筆する経済ジャーナリストが、話題の本を紹介。今回は、ドン・キホーテ創業者の安田隆夫氏の著書『運 ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」』 (文春新書)です。
運はその人が成しえた人生の結果
人生において運をどうとらえるか。特に20代、30代の若い世代にとって関心のあるテーマだろう。本書は流通大手ドン・キホーテの創業者である安田隆夫氏が、自らの経験をもとに運というものをどう考えるかを示した。
多くの人は、「運は人智の及ばないもの」と考える傾向が強く、そうした側面もないとはいえないが、著者は自らの経験から、運は自分の意思でコントロールできるということを本書で強調する。運はその人が成しえた人生の結果そのものであり、著者は「困難にもがきながらも、努力し行動した結果、人生が結果的に良い方向に向かったということなのだ」と指摘する。
著者がそうした考えに至った原点は、若い頃に自堕落な生活を送り、明日の生活もわからぬ中、プロ雀士たちとの麻雀勝負で糊口をしのいでいた経験にある。その後ビジネスでの試行錯誤を重ねる中で、運の総量そのものは人によって大差なく、差がつくのは運を良くする行為、あるいは悪くする行為で、個々人の総量が変わっていくという考えに至ったという。著者は運のいい人とは「運を使い切れる人」であり、運の悪い人は「運を使い切れない人」「使いこなせない人」と表現する。
ビジネスは一回でも大きな成功を収めれば勝てる
勝負事などの短期的な「ツキ」をコントロールすることは実質的に不可能だが、著者の実感によると、挑戦を続けている人や、未来に希望を持つ楽観論者の人が運に恵まれ、楽観論者のほうが悲観論者に比べ圧倒的に勝つ確率が高いという。
著者は、スポーツと違って人生やビジネスは一試合ごとに区切りがあるわけではなく、どこまでも点の総量を競うエンドレスゲームだと位置づける。それゆえに、何度失敗しても、一回でいいから大きな成功(得点)を収めれば最終的に勝つことができると説く。
運は自ら切り開いていくもの
さらに著者は、自分に流れが来ていると感じたときには攻めの姿勢を貫き、ツキがないと感じたときには無理をせず、「見(けん)を決める」ことも重要だという。見を決めるとは、目の前で起きていることには参加せず、状況や場の流れを注意深く観察する姿勢のことで、その結果、運や勝機が向こうから自然に転がり込んでくることもあるという。
これまで多くのビジネスの修羅場をくぐってきただけに、著者の主張には説得力がある。著者は「攻め」と「挑戦」と「楽観主義」の姿勢を運の三大条件と呼び、自身も実践してきた。
本書で示される運についての考え方は、読む人それぞれに受け止め方が異なるだろう。ただ、全体を貫く「運は自ら切り開いていくもの」という考え方に共感できる人も多いのではないか。若いビジネスパーソンに薦めたい一冊である。
『運 ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」』 安田隆夫著 文春新書 792円(税込)