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出生率0.7でソウルが86万人減の衝撃。韓国の若者の背景にあるSKYの意識とは

国内の少子化が問題視されている。東京の出生率は1.04だ。地方部から人口を吸い寄せる首都の出生率が低いため東京は「ブラックホール」とまで言われている。

しかし、世界はもっと深刻だ。特にお隣の国、韓国の出生率は衝撃的で0.7となっている。この背景には何があるのか。

そこで今回は、国際安全保障や経済安全保障などを専門とする和田大樹さんに、韓国の若者を巡る社会・経済事情を教えてもらった(以下、和田大樹さんの寄稿)。

ソウルの人口が約10年で86万人減

韓国の若者たちを巡る社会・経済事情が深刻化している。

韓国社会における最大の課題は少子化だ。日本の出生率も1を少し超える程度なので、今後を考えると深刻な数字だが、韓国の出生率は0.7とさらにひどい。

韓国の国労働研究院が今月中旬に発表した統計によると、世帯主が25〜39歳の既婚世帯のうち、子どもの居ない世帯が2022年(令和4年)に27.1%に達した。2013年(平成25年)の22.2%から5ポイント上昇している。

子どもが居ない夫婦のうち、共働き世帯の割合は2022年(令和4年)に71%に上り、2013年(平成25年)比で17.8ポイントも上昇した。

この理由について、韓国労働研究院は、住宅価格の高騰が出産を避ける阻害要因になっていると指摘している。ソウルで爆上がりするマンションなどの価格が結婚・出産の判断に影響を与えているのだ。

筆者は日本人だが、プライベートや仕事のつながりで韓国の友人が多い。その友人らに意見を聞くたび「(韓国の住宅は)東京より高い、異常だ」と嘆いている。

実際、韓国政府の統計庁のデータでも、ソウルの暮らしづらさが垣間見える。

2014年(平成26年)から2023年(令和5年)の間に、ソウル市から他の地域に転出した人は547万2,000人だった。

一方、他の地域からソウル市に転入した人は461万1,000人にとどまっている。要は、ソウルを避ける傾向とも読み取れるのだ。

結果として、ソウルの人口は10年あまりで86万人減少した。

SKYか、SKY以外か

プラス、学歴による経済格差も少子化に影響を与えていると言われる。

日本は今でも、学歴社会と言えば学歴社会だが、以前と比べると随分と緩和されるようになったのではないか。

筆者は、大学の講義や講演会、セミナーなどでいろんな大学の学生に教える立場にあるが、そこで接する優秀な学生たちには「なにがなんでも東大!」という意識が以前ほど強く感じられなくなってきた。

「学歴ではなく学習歴」という意識の方がむしろ強く、学校名など二の次、実際にどこで何を学んできたか(何ができるようになったのか)を重視する若者の方が多いと感じる。

しかし、学歴社会が韓国には強く残っている。特に、SKY(ソウル大学・高麗大学・延世大学)に入るかどうかで、その後の就職にも大きな影響が出ると言われている。

有名大学に入る=エリートになれる韓国では、同じ大卒でも大きな経済格差が生じる。経済格差がある世の中では、子どもはおろか、結婚できない(と考える)若者も増える。

日本在住の韓国人の友人は「私は韓国人だが、日本に比べて(学歴社会の強い)韓国社会はかなり働きにくい。日本に来た理由の1つはそれだ」と赤裸々に語ってくれた。

Kポッブやグルメなどで世界を魅了する韓国を、今の若い日本人はまぶしく感じるかもしれない。

しかし、ふたを開けてみると、今の韓国社会は若者にとって大変な世の中になっているのだ。

[文/和田大樹]

専門分野は、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者として安全保障的な視点からの研究・教育に従事するかたわら、実務家として、海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。特に、国際テロリズム論を専門にし、アルカイダやイスラム国などのイスラム過激派、白人至上主義者などのテロ研究を行う。テロ研究ではこれまでに内閣情報調査室、防衛省、警察庁などで助言や講演などを行う。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会、防衛法学会など。多くのメディアで解説、出演、執筆を行う。
詳しい研究プロフィールは以下、https://researchmap.jp/daiju0415

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