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巻き髪を女性CAに求める航空会社「かわいさ」で成長をけん引するLCCベトジェットの戦略

ビジネス

航空会社の社長に、あるいは影響力のあるポジションに就任したと仮定してほしい。皆さんなら、その航空会社をどのように伸ばしていくだろうか。

保有する機材の刷新だろうか。徹底的なコストカットだろうか。いろいろな考え方があるだろうが「かわいさ」をキーワードに成長する航空会社もあるらしい。

ラウンジサービスに加えて、チェックイン、手荷物、搭乗などが優先されるベトジェットエア社〈skyBOSS〉では機内食が無償でサービスされる。制服が華やかだ

そこで今回は、航空ジャーナリストの北島幸司さんに、大躍進中の航空会社ベトジェットエアを紹介してもらう(以下、北島幸司さんの寄稿)

会社から髪は、カールするように推奨されている

ベトナムのLCC(格安航空会社)ベトジェットエアをご存じだろうか。ベトジェットエアはLCC(格安航空会社)でありながら、ベトナム最大の民間航空会社である。

同社の客室乗務員は、ベージュでチェックのショートパンツに真っ赤なポロシャツを着用する。プラス、パイロットの制服のような赤い上着を羽織る姿は異彩を放つ。世界のどのエアラインにも存在しないいでたちだ。

同時に、動きやすく機能性にも富む制服は女性目線でも、パーツごとに「かわいい」ポイントがあるらしい。特に、チェックの制帽とストラップ付きの真っ赤な靴に魅力を感じるという意見を一般の女性から聞いた。

客室乗務員を機内で撮影していると、

「会社から髪は、カールするように推奨されているんです」

との話が聞かれた。ここまでくると、何か違うサービスを連想させられてしまう。

しかし、ベトジェットエアは単なる色物・際物の航空会社ではない。女性社長が率いる同社は、コロナ禍を経て再成長軌道に乗り、アジア域内にとどまらずオーストラリアやインドへと路線を伸ばしている。

現在、日本では、成田・羽田・中部・関西・福岡の5空港とハノイ・ホーミチンを結ぶ7路線に就航している。さらに、今年5月からは、広島空港よりハノイへ新規路線が開設される。

ベトナム国内で長く寡占状態を謳歌(おうか)してきたベトナム航空にすら今は、並ぶどころか追い越してしまった。

機内水着ファッションショーも

成田空港でホーチミンへの出発準備を行うエアバスA321

同社の就航開始は2011年(平成23年)である。その翌年に就航した日本のLCC(格安航空会社)ピーチアビエーション(大阪府)と比較すると、その立ち位置が分かりやすくなるかもしれない。

日本のピーチアビエーション社は〈旅くじ〉や乗り放題などの目新しい企画が多い。同じくベトジェットエアも、就航初期のころには機内水着ファッションショーなど、今までにない発想の企画を実現させてきた。その意味で両社の実行力は似ている。

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しかし、成長の速度は、ベトジェットエアの方がより上だ。似た社歴を持つ2社ではあるものの、ベトジェットエアの輸送力の現在地は、ピーチアビエーションの2倍以上ある。保有機数も、ピーチアビエーションの29機に対しベトジェットエアは84機と2.8倍だ。

本拠地の国内で競合する相手との関係性も違う。ベトナムの航空業界でベトジェットエアが競合する相手はベトナム航空である。

ベトナム政府の民間航空局の位置付けで1956年(昭和31年)に歴史が始まったベトナム航空は、長く寡占状態を国内で続けてきた。

しかし現在、3位以下のバンブー・エアウェイズやベトラベル航空、パシフィック航空を押さえ、ベトナム航空とベトジェットエアが2強体制で業界シェアを競っている。

現在のベトナム航空とベトジェットエアの輸送力(有償旅客キロ・RPK)の数値をコロナ禍前と最新データで比較してみると次のとおりだ。

2019年(令和1年)ではベトナム航空の輸送力は376億RPKで、295億RPKのベトジェットエアの輸送力を27%上回っていた。

だが、最新の2022年(令和4年)のデータでは、ベトナム航空の227億RPKに対してベトジェットエアが259億RPKと追い越してしまったほどなのだ。

恥ずかしいと思う時もあったが今はうれしい

男女ペアで機内サービスを進める客室乗務員

この「かわいい」を戦略にする考え方について働く人たちはどのように考えているのか。日本人客室乗務員にも話を聞いてみた。

入社後、ホーチミンに住み、日本線を中心に乗務する彼女は、会社について「すこぶる居心地がいい」と言う。

「ベトナム人の同僚はとても良く働きます。仲間のように上司とも仕事ができますし、フレンドリーな環境に満足しています。

創立記念日やベトナム旧正月(テト)の時には社員を集めてホテルなどを会場にパーティを会社が開いてくれます。

憧れの存在だったCEO(最高経営責任者)のタオ社長とも記念撮影ができて仕事の励みになりました。

長距離を飛び始めたので、インドやオーストラリアの方の利用が増えました。これからも成長するベトジェットエアで働けて幸せです」

制服についてはどうだろうか。

「当初は、制服姿で空港を歩くと恥ずかしいと思う時もあったのですが今では、着用できてうれしいです」

ホーチミン空港で出発していくベトジェットエアの機体

日本人旅客者の利用は、日本とベトナム間だけではない。LCC(格安航空会社)の運賃の強みを生かして、バンコク・チェンマイ・バリへの乗り継ぎも多いと聞いた。

さらに同社は、この2024年(令和6年)2月にもワイドボディ機を20機発注して、中距離国際線への足固めを急いでいる。

歴史あるフルサービスキャリアの輸送力をLCC(格安航空会社)が抜く事例も欧州で出てきたようにベトナムでも、ベトジェットエアが一歩抜きん出る結果となった。

今回の取材にあたって、ベトジェットエアに乗るならと、客室乗務員の制服を着たテディベアを機内ショッピングで買ってきてほしいとの依頼を知人から受けた。

搭乗便では買えなかったが、ベトジェットエアのオフィスの入るビルがホーチミン空港近くにあり、その中のショップで購入できた。

それだけ、多くの人の心を同社の制服が動かしている証拠ではないだろうか。一般女性が興味を持つ制服デザインは当然、大きな強みになる。

赤と黄色のコーポレートカラーは鮮やかであり、客室乗務員赤い制服は情熱のカラーだ。SNS(会員制交流サイト)映えするベトジェットエアの航空機は空港でも目立っている。

まさに、同社の女性社長は、客室乗務員をかわいさで魅せ、ビジュアルで注目を集めて、経営をけん引する戦略を採用しているとも言える。その勢いは今後も続き、アジアのみならず世界へと翼を広げていくだろう。

[取材・写真・文/北島幸司]

航空会社勤務歴を活かし、雑誌やWEBメディアで航空や旅に関する連載コラムを執筆する航空ジャーナリスト。YouTube チャンネル「そらオヤジ組」のほか、ブログ「あびあんうぃんぐ」も更新中。大阪府出身で航空ジャーナリスト協会に所属する。Facebook avian.wing instagram @kitajimaavianwing

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