敗戦直後の国内EV普及率は今以上だった。電気自動車の意外すぎる真実
バッテリーで走る電気自動車(EV)の国内普及率は低い。電気自動車(EV)の普及率は、普通乗用車全体の1.42%(2022年)だ。
2023年(令和5年)上半期の全販売台数(普通乗用車・軽自動車)におけるEV割合は2.38%と上向いているものの、同時期のアメリカは約7.2%、ヨーロッパは約14.2%となっている。中国では約20.5%だ。
その状況を受け、電気自動車(EV)を含むZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)のさらなる国内普及を目指して東京都や国、自動車メーカーが懸命に努力している。
ただ、ユーザーの関心はどうだろうか。「あなたが3年以内に購入を検討する自家用車のエンジンタイプは何ですか?」と聞いた2022年(令和4年)の民間調査では「ガソリン」を挙げる人が最多だった。その割合は特に地方で大きい。
同等のスペックであればガソリン車の方が手に入れやすいという傾向もあるため、電気自動車(EV)を含むZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)に対する興味関心が、現時点ではぼんやりしている可能性もある。
そこで今回は「ゼロエミッション東京」に向けた東京都のZEV普及キャンペーン〈TOKYO ZEV ACTION〉の出張授業「EV特別出張講義」に参加し、登壇者である日産自動車のEV開発技術者・鳴神寿一さんの話を聞いてきた。
その講義の中から、電気自動車(EV)に関する興味深いトリビアを幾つか紹介する。地方暮らしで自動車が欠かせない若い読者などには特に、電気自動車に関心を持つ1つのきっかけにしてもらいたい。
敗戦直後の国内EV普及率は今より高かった
電気自動車(EV)の市販化は、ここ20~30年ほどの出来事といった印象がないだろうか。しかし、実際の歴史はもっと長い。
日産自動車のEV開発技術者・鳴神寿一さんによると、第二次世界大戦の敗戦から間もない1947年(昭和22年)には、立川飛行機から派生した東京電気自動車の製造で〈たま電気自動車〉が市販化されているらしい。
東京電気自動車は後に、プリンス自動車工業となり、1966年(昭和41年)に日産自動車と合併した。いわば、日産自動車の電気自動車(EV)の歴史は1947年(昭和22年)までさかのぼると言える。
当時の時代背景を振り返ると、太平洋戦争の引き金にもなった石油の不足が戦後も深刻だった。一方で、水力発電を中心に電力にゆとりがあった。
そこで〈たま電気自動車〉を皮切りに電気自動車(EV)が製造される。〈たま電気自動車〉は特に好評で、タクシーなどに積極的に採用された。
商工省(通商産業省の前身。現・経済産業省)の性能試験では、1回の充電で走行できる距離(航続距離)が96.3キロ、最高速度35.2キロの好成績を収めた名車だったという。
1949年(昭和24年)当時は、日本全体に自動車の数が少なかったため、全自動車保有台数のうち約3%(3,299台)が電気自動車(EV)だった。今よりも高い普及率である。
実は水に強い
電気自動車というと水に弱いイメージがないだろうか。電化製品が水に弱いイメージから、電気自動車(EV)も水に弱いイメージがあるのかもしれない。
さらに、水没したら感電するなど、まことしやかなうわさもネット上に多く見られる。
しかし、日産自動車の鳴神さんによると、電気自動車(EV)はガソリン車と比べて水に弱いという事実はないらしい。
例えば、ガソリン車は、テールパイプ(いわゆるマフラー)の出口が水でふさがれた場合、燃焼したガスが排出されないのでエンジンが止まってしまう。
一方の電気自動車(EV)はそもそも、排気ガスを出さないのでテールパイプがない。電気自動車(EV)の中で一番重い部品のバッテリーが車両の床下に入っているため、車の床下も完全に密閉されている。
日産自動車の場合、水没試験や雨天時の充電試験なども徹底的に行い、水に対する耐久性を追求している。
冠水などが発生する大雨の時にはむしろ、電気自動車(EV)の方が安心できるとも言える。ガソリン車と比べて電気自動車(EV)が水に弱いという印象は全くの誤解だ。
走行後の温まった状態で充電するといい
電気自動車(EV)は、燃料補給の代わりに充電が必要となる。そもそも、どのように充電するのかと言えば、EV充電用屋外コンセントを自宅に設置して充電する。
プラスして、約30,300基の充電器が日本全国に存在する(2023年8月末時点)ため、外出先での充電も可能だ。
そのうち、急速充電器数は約9,250基にのぼる(同上)。急速充電器は、全国の道の駅やコンビニ、日産自動車などの自動車ディーラーに設置されている。
その数は、政府方針で30万口まで、2030年(令和12年)を目標に拡大していくらしい。この充電に関しては他にも豆知識がある。
日産自動車の鳴神さんによると、充電器側の仕様および能力、ならびに車の能力が関係するため一概には言えない部分もあるらしいが、充電効率は温度に影響を受けるという。
EV車載用バッテリーとして現在主流のリチウムイオン電池の内部は化学反応が低温で遅くなるため、温度が低いと充電速度が低下する。逆に、バッテリーを適温(25℃付近)に保てば充電パフォーマンスを上げられる。
日産自動車の場合、温度のマネージメント技術でバッテリーの充電効率を一定に保てるよう工夫しているそうだが、今のような冬場は、バッテリーが温まった走行後に充電するとさらに効率良く充電できる(充電が入りやすくなる)らしい。
近い将来、電気自動車(EV)のオーナーになった時のために覚えておきたい。
EVから電力を供給するには専用装置が必要
停車時には、蓄電池としても使える電気自動車(EV)。当然、電気を家に戻す仕組みもある。
例えば〈日産リーフ e+〉のバッテリー60キロワットアワーの場合、4日分くらいの家庭内の電力をまかなえるそうだ(エアコン4時間使用を想定)。
家の中だけでなく、イベントやレジャーにも使える。もちろん、キャンプ場でも蓄電池として活用できる。その手の用途に使用している人も多くなっているらしい。若い世代には、魅力的なポイントではないだろうか。
非常時の用途も見逃せない。今年の正月は、能登半島地震もあった。電気自動車(EV)の機能を使えば被災地で車の電気を取り出し、家電を動かせるようにもなる。
実際に、2019年(令和元年)の台風15号(令和元年房総半島台風、最大風速35.9メートル・最大瞬間風速57.5メートル)で被災した地域の公民館において、スマートフォン充電・扇風機稼働・夜間照明点灯用の電気を自社の電気自動車から日産自動車は供給した。
被災地の保育所の扇風機、および高齢者福祉施設の扇風機・冷蔵庫・調理器具の稼働も支えた。
日産自動車としても、蓄電池としての電気自動車(EV)の可能性をさらに発展させ、未来のエネルギー社会に貢献していきたい抱負があるという。
日産自動車と日立ビルシステムの間では、停電時のエレベーターの移動を可能にする実験も行われている。
ただ、EV車載用バッテリーの電気と、家庭内に流れる電気は種類が違うため変換が必要な点は要注意である。その変換には定置型、および(または)可搬型パワーコンディショナーを用意しなければいけない。
電気自動車(EV)さえあれば、すぐに電気を取り出して、イベント用や家庭用に電力を供給できるわけではないと知っておきたい。
以上、電気自動車(EV)に関する意外な豆知識を幾つか紹介した。
他にも、過去10年で、電気自動車(EV)の航続距離は、バッテリーの容量増と共に増え、90キロワットアワーの〈アリヤ リミテッド〉では航続距離が640キロまで達しているといった情報もあった。
フォーミュラEに参戦する電動フォーミュラカーのモーターは瞬間的に1,000馬力くらい出せる実力があるだとか、使用済みEV車載用バッテリーの再利用・再製品化・再販売・リサイクルが進んでいるだとか、興味深い話は尽きない。
まだまだ、電気自動車(EV)は発展を続けていく。電気自動車(EV)の購入、利用、および維持に必要なトータルコストを2030年(令和12年)までにガソリン車並みに引き下げる方針も政府から発表されている。
上述したような、電気自動車(EV)と環境に優しい未来の東京を実感できるイベント〈E-Tokyo Festival 2024〉も2024年(令和6年)3月30~31日でまた開催される。
次の車の購入・買い替えの際には有力な選択肢の1つとして、次の世代を担う若者たちこそ、電気自動車(EV)に目を向けたい。
[取材・文/bizSPA!フレッシュ編集部]
[参考]
※ TOKYO ZEV ACTIONEV特別出張講義資料
※ Vol.1「日産アリア」へとつながる、日産EV開発の歴史。 – 電気自動車(EV)総合情報サイト
※ EV100年史〜東京電力とEVの歩み〜 – 東京電力エナジーパートナー
※ 自宅に設置するEV・PHEV充電用コンセントとは?種類や工事、費用相場を解説 – 東京電力エナジーパートナー
※ 直流、交流ってなんのこと? – 関西電力
※ 2022年 次世代自動車に関する消費者意識調査 – デロイト トーマツ グループ
※ 【2023年最新】EVの普及率はどのくらい?日本と世界のEV事情を解説 – 東京電力エナジーパートナー