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NHK「ウクライナ報道字幕」に専門家が疑問。視聴者が知るべき“街頭インタビュー”の問題

ビジネス

 新型コロナウイルス感染症のパンデミック以来、連日テレビに出てワクチンの必要性を力説している「専門家」たちが注目を集めてきた。しかし、「そもそも“専門家”とは誰かということ自体、実はかなりあいまいである」と述べるのは、テレビ、新聞、雑誌などでもおなじみの生物学者・池田清彦氏@IkedaKiyohiko)だ。

ウクライナ

※画像はイメージです(以下同じ)

 科学哲学、環境問題、生き方論など、幅広い分野に関する著書を持つ池田氏が、「専門家だからこそ言えないようなこと」を、その分野の文献や客観的なデータを踏まえながら論じた著書『専門家の大罪-ウソの情報が蔓延する日本の病巣』より、「専門家という肩書の利用価値」についての章を紹介する(以下、同書より抜粋)。

「街頭インタビュー」と「専門家」の重みのちがい

 NHKのニュースで流れた映像に対し、青山学院大学の袴田茂樹名誉教授が疑問を呈しているという記事を読んだ。その映像はロシアのウクライナ侵攻による戦禍を逃れて来日している女性が、ウクライナ語と思われる言葉でインタビューに答えているもので、「今は大変だけど平和になるよう祈ってる」という字幕がつけられていたのだという

 ところが、ロシアやウクライナ情勢の専門家である袴田教授の話だと、女性が話していたのは南方アクセントのロシア語とウクライナ語のミックスで、その言葉を直訳すると「私たちの勝利を願います。勝利を。ウクライナに栄光あれ」ということになるらしい。

意図的な改ざんをしたのはなぜか

専門家の大罪

池田清彦『専門家の大罪-ウソの情報が蔓延する日本の病巣』(扶桑社新書)

 外国語を、そのニュアンスを含めて正確に翻訳するのは難しいが、さすがにこれは意図的な改ざんだと言ってよい。NHKとしてはおそらく、この女性に「平和の大切さ」を訴えてもらいたかったのだろう。しかし、この女性が願っているのはあくまでも「ウクライナの勝利」なのである

「ウクライナ=善、ロシア=悪」という前提に立てば、「ウクライナの勝利=平和」は成り立つのだろうし、私だってプーチンが正しいことをしているなんてこれっぽっちも思っちゃいないが、それは一つの見方であって、事実をねじ曲げることの言い訳にはならないはずだ。

 街頭インタビューなんかの場合は、自分たちに都合のいいような意見だけを取り上げれば、世の中の人みんながそう考えているような印象を視聴者に植え付けることも難しくはない。とはいえ、さすがに見ているほうもバカじゃない。

専門家の大罪-ウソの情報が蔓延する日本の病巣

専門家の大罪-ウソの情報が蔓延する日本の病巣

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